連載「ポストコロナのIT・未来予想図」の第21回。議論は盛り上がるものの、決して容易ではない中央銀行デジタル通貨の発行。その中で、意外な国が正式発行にこぎつけたことを知っているだろうか。「デジタル通貨フォーラム」の座長を務める元日銀局長の山岡浩巳氏(フューチャー取締役、フューチャー経済・金融研究所長)が解説する。
IT化やデジタル革命を巡る話題の一つの焦点が、「マネーのデジタル化」(第6回、第8回、第9回、第10回、第11回、第15回参照)です。世界では、米国の“GAFA”や中国の“BAT”のような「ビッグテック」と呼ばれる巨大企業が、デジタルマネーの分野に次々に参入しています。この中で、これまで紙の銀行券を発行してきた中央銀行も、紙に代わるデジタルの通貨を発行してはどうかという「中央銀行デジタル通貨」の議論が、大きな盛り上がりをみせています。
しかし、中央銀行デジタル通貨の発行は簡単ではありません。これが銀行預金からの資金シフトを起こせば、銀行の貸出原資が減ってしまうかもしれません。また、中央銀行がデジタル決済のインフラにまで自ら手を伸ばせば、民間主導のイノベーションを阻害しかねません。世界で最も早く、2016年から中央銀行デジタル通貨の検討を始めたスウェーデンでも、なお、その発行に踏み切るには至っていないのです。
この中で、意外な国が、中央銀行デジタル通貨の正式な発行にこぎつけました。カリブ海に浮かぶ小国、バハマです。
バハマ、デジタル通貨「サンド・ダラー」を発行
バハマは、人口約35万人の小さな島国であり、米ドルとペッグ(為替レートを固定)したバハマ・ドルが法定通貨とされています。このバハマは昨年10月20日、中央銀行デジタル通貨「サンド・ダラー」(Sand dollar)の正式発行を開始しました。
“Sand dollar“とは、”Sea cookie”とも呼ばれるウニやヒトデの仲間の動物で、バハマ中央銀行のシンボルマークにもなっています。このような、バハマを象徴する生き物の名前が、中央銀行デジタル通貨の名称として採用されました。