デジタル化はとりわけ小国にチャンス
中央銀行デジタル通貨については、多くの国々が検討を強化していますが、現段階では、正式な発行に踏み切った先進国はまだありません。この中で、小国バハマが先んじて正式発行に至った理由は、どこにあるのでしょうか。
もちろん、バハマ固有の要因があります。例えば、スウェーデンのような先進国が中央銀行デジタル通貨を検討する場合、「自国通貨への急激な資金流入が生じて為替レートが急変するリスク」なども考えなくてはなりません。この点、バハマ・ドルはそもそも米ドルにペッグしている通貨であり、金融政策の独自性はもともとありませんので、その分、考えるべきことが少なくて済む面はあります。
また、デジタル化が技術格差を埋める方向に働く面もあります。デジタル技術は基本的に、国境などの地理的制約を受けにくいものです。以前の本コラム(第18回参照)でご紹介した“GitHub”の例が示すように、デジタル技術に関する情報格差は、国境を越えて急速に解消しつつあります。また、ソフトウエア企業が自らのプロダクトを海外に提供することも、ユーザーが海外のサプライヤーからソフトウエアを調達することも、いずれも容易になっています。
さらに、小国の方が「負のレガシー」の影響を受けにくいことも挙げられます。急速な技術革新の下では、既存のインフラが「負のレガシー」化しやすく(第2回、第3回参照)、また、既に経済発展を遂げてきた国ほど、過去に蓄積したインフラが膨れ上がりやすい面があります。一方、小国にとっては、今から現金を流通させるために銀行店舗やATM網を構築するよりも、一足飛びにデジタル化に向かう方が、コストを節約しつつ一気にインフラをキャッチアップさせられる可能性が広がります。
日本としても、このような動きに十分関心を向けながら、自らのインフラ整備に取り組んでいく必要があるでしょう。
◎山岡 浩巳(やまおか・ひろみ)
フューチャー株式会社取締役/フューチャー経済・金融研究所長
1986年東京大学法学部卒。1990年カリフォルニア大学バークレー校法律学大学院卒(LL.M)。米国ニューヨーク州弁護士。
国際通貨基金日本理事代理(2007年)、バーゼル銀行監督委員会委員(2012年)、日本銀行金融市場局長(2013年)、同・決済機構局長(2015年)などを経て現職。この間、国際決済銀行・市場委員会委員、同・決済市場インフラ委員会委員、東京都・国際金融都市東京のあり方懇談会委員、同「Society5.0」社会実装モデルのあり方検討会委員などを歴任。主要著書は「国際金融都市・東京」(小池百合子氏らと共著)、「情報技術革新・データ革命と中央銀行デジタル通貨」(柳川範之氏と共著)、「金融の未来」、「デジタル化する世界と金融」(中曽宏氏らと共著)など。
◎本稿は、「ヒューモニー」ウェブサイトに掲載された記事を転載したものです。