サンド・ダラーの特徴

 サンド・ダラーは、銀行などの「認定金融機関」(Authorized Financial Institution、AFI)が提供するウォレットアプリ(“e-wallet”)、またはカードを通して、以下の3種類のアカウントにより提供されます。それぞれのアカウントには、性質に応じて保有額に上限が課されています。

 Individual I:銀行口座を持たない人々や非居住者、旅行者向けのアカウント。銀行口座との紐づけはできない。残高上限は500バハマ・ドル、月当たりの取引量上限は1500バハマ・ドルと厳しい。一方で本人確認などの要求は厳しくない。

 Individual Ⅱ:現在の銀行口座に相当する、通常の個人用アカウント。銀行口座との紐づけができる。残高上限は5000バハマ・ドル。月当たりの取引量上限は1万バハマ・ドル。

 Commercial:高額の決済用に使える一方で本人確認義務などが厳しく課せられる、法人のビジネス用のアカウント。銀行口座との紐づけが義務付けられている。残高上限は保有者の性質に応じて8000~100万バハマ・ドル。取引量に上限はない。

 人々や企業は、ウォレットアプリを提供する金融機関(AFI)を選び、これを経由してサンド・ダラーを利用することになります。もちろん、異なる企業が提供するウォレット間であっても、サンド・ダラーによる送金を可能とすることが目指されています。もっとも、そのような完全な相互運用性を実現していくためには、今後、参加する民間企業がプラン通りにネットワークを構築していくことが必要です。

 カリブ海の島国にとって常に問題となるのは、ハリケーンによる風水害や停電です。このことも踏まえ、サンド・ダラーは、ウォレットがオフラインになっても、ウォレット同士で送金を行うことが可能となるよう設計されており、このために分散型台帳技術が利用されています。

 一方で、海外送金にはそのまま使うことができません。海外送金を行いたければ、サンド・ダラーをいったん預金に替え、銀行を経由して送金する必要があります。

 サンド・ダラーを使えるウォレットを提供する金融機関(AFI)は、現時点では6社と限定的ですが(下図)、今後はより多くの民間企業を巻き込みながら、発行を拡大していく計画になっています。また2021年前半には、行政・公共サービスにおいて、サンド・ダラーを積極的に利用していく予定になっています。

サンド・ダラーのe-walletを提供する金融機関

 バハマ中央銀行は、サンド・ダラー発行の目的として、決済のコスト削減や効率化に加え、銀行サービスに十分アクセスできていない人々に決済手段を提供する「金融包摂」(financial inclusion)の推進を掲げています。究極的には、バハマに住む全ての人々がサンド・ダラーを利用できることが目指されています。バハマ政府は2021年1月からサンド・ダラーに関するウェブサイト(www.SandDollar.bs)を立ち上げ、バハマの人々への情宣活動に努めています。同時にバハマ中央銀行は、現金を廃止するつもりはないとも明言しています。

 なお、サンド・ダラーについては、取引情報の秘匿に留意されながらも、反マネーローンダリングのために必要な措置を採り得るよう設計されており、現金のような完全な「匿名性」を有しているわけではありません。