連載「ポストコロナのIT・未来予想図」の第30回。これまでの会社制度は、「人や資源が物理的に集まる」ことを前提として構築されてきた。デジタル化の進行とともに、株主総会や会社はどう変わるのか。元日銀局長の山岡浩巳氏が解説する。

 コロナ禍の中、感染拡大を防ぐために企業に強く要請されたのが「リモートワーク導入」です。実際、リモートワークやリモート会議は拡大し、勤務体制や資源配分の抜本的な見直しに取り組む企業も増えています。

コロナ禍とバーチャル株主総会

 その一方で、リモートへの移行がこれまでなかなか簡単ではなかったものもあります。その一つが株主総会です。

 日本における株主総会のこれまでのイメージは「拍手」や「怒声」でしょう。株主総会と言えば、会議場に株主が実際に集まって議決を行うものでした。しかし近年では「電磁的方法による議決権の行使」や「株主総会資料の電子提供制度」などが導入され、一部をバーチャルで開催することが可能となりました。

 もちろん、コロナ禍にかかわらず、株主総会へのリモート参加の環境を整備することは有益です。株主は必ずしも総会の場所の近くに住んでいるわけではないからです。しかし、とりわけコロナ禍の中、これらの制度は去年から積極的に利用され、クラスター防止に貢献してきました。

 もっとも、これまでの制度改正は、「完全バーチャル」は想定できていませんでした。その最大の理由は、会社法において、株主総会の「場所」を定めなければならないとされているためです(第298条)。「完全バーチャル」では、そもそも「場所」が定義できなくなります。

 しかし、感染拡大防止の取り組みが引き続き求められる中、本年、「産業競争力強化法」の改正の一環として、上場会社が経済産業大臣および法務大臣による確認を受けることで、「場所」を定めない「完全バーチャル」の株主総会を開催できるようにする法案が提出されています。日本では3月決算の企業が多いため、株主総会シーズンは6月下旬となりますが、この法案が成立し、今年の株主総会シーズンからバーチャル総会が増えていけば、会社のあり方が変わる一つの契機になるでしょう。