連載「ポストコロナのIT・未来予想図」の第25回。デジタル化が今後の産業競争力を大きく左右する分野として、現在、世界的に活発な取り組みが行われているのが貿易取引である。元日銀局長の山岡浩巳氏(フューチャー取締役、フューチャー経済・金融研究所長)が解説する。
連載第21回、第24回では、バハマやカンボジアのデジタル決済インフラ構築について紹介しました。これらの国々は、経済の根幹である「マネー」を巡るインフラについて、デジタル化を通じて急速なキャッチアップを果たそうとしています。
同様に、現在、先進国も含め、活発なデジタル化の取り組みが世界的に行われている分野として、貿易取引が挙げられます。
ブロックチェーン・分散型台帳技術と貿易取引
新しい分散型デジタル技術として注目されているブロックチェーンや分散型台帳技術(DLT)ですが、これらの技術が特に効果を発揮しやすいのは、取引の構造がもともと分散型であり、また、多くのペーパーワークが残存している分野です。貿易取引はその典型です。
貿易を巡っては、財のやり取りとともに、信用状や船荷証券、通関書類、保険証書、原産地証明書など数多くの紙が行き交っています。これらの書類を連携しながら並行して処理しなければいけないニーズが強い一方、中央銀行決済システムや銀行間決済システムのような中央集中型のインフラもありません。
逆に言えば、これらの紙の書類をデジタル化し、関係者が同時に共有できるようにすれば、取引の迅速化やコストの削減を実現できる可能性が高いわけです。さらに、分散型台帳技術が可能にしている「スマートコントラクト」(契約の自動化、第19回参照)を通じて、これらの事務処理が連携して自動的に行われるようにすれば、取引の効率化が大きく進むと考えられます。加えて、COVID-19の感染拡大の中で発生した国際郵便物の遅延なども、貿易取引のデジタル化の取り組みを加速させています。