従来、IT技術を取り込んでデジタル化・リモート化を進めようとしても、「リモートワークを進める上では労働法規のクリアが大変」「紙やハンコを無くすのは関連法や規制のため大変」など、さまざまな反対論が出されることも多かったと思います。しかし、感染症という生命のリスクは、「本当に重要なこと」をあぶり出す面があります。押印事務のために、感染のリスクを負いながら、通勤ラッシュの中を出勤しなければならないのかと。そして、リモートワークにしても、「思い切って踏み切ってみたら、意外とできた」という部分は大きかったように思います。

 このような経済活動の変容は、さまざまな副次的効果をもたらしています。例えば、家族の転勤に伴い退職をしなければならないと考えていたが、リモートワークの拡大により退職をしなくても良くなった、といったケースです。

 もちろん、感染症により、貴重な対面での学びの機会を犠牲にしている学生さんなども多くいらっしゃいます。感染症は、対面の機会の貴重さを再認識させるものでもあります。この中で、ペーパーワークや押印事務についても、「貴重な対面の機会を割り当てるに値する事務かどうか」という観点から、包括的な見直しが行われるべきでしょう。

人類は経済社会を回し続けてきた

 歴史を振り返っても、人類はさまざまな感染症を経験してきました。中 世の黒死病(ペスト)はその典型であり、中世から近代にかけて、英国や欧州を繰り返し襲ったとされています。

 ただ、データが入手可能な英国の中世以降の経済成長率をみると、黒死病などの感染症の後、成長率が長期にわたり大きく落ち込んでいるようには見えません。感染症は大変な災厄ですが、人類はそのたびに新しい成長のドライバーを見つけ、構造転換を果たしながら経済を回し続けてきたようです。

過去700年間の英国の1人当たり成長率(後方10年加重平均)
出所:イングランド銀行資料に筆者が加筆