世界を先導するバルセロナではセンサーが都市を変えた

 ここからはバルセロナのスマートシティ計画についてお話しします。元々、バルセロナは約10年にわたってスマートシティ計画を世界に先導してきた都市です。そして、EUが最初にスマートシティとして承認した都市でもあります。

 現在のバルセロナ市長は、アダ・クラウ氏という女性です。2015年、市長に選出された彼女がまず取り組んだことが、デジタル・イノベーション・オフィスの設置でした。そして、チーフ・テクノロジー&デジタル・イノベーション・オフィサー(CTDO)にフランチェスカ・ブリア氏という女性を指名します。この方は、イタリア国立イノベーション基金の会長であり、ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン(UCL)の名誉教授、さらに国連のデジタル都市とデジタル権利に関するシニアアドバイザー兼アンバサダーという経歴の持ち主です。ブリア氏は前担当者の政策を大胆に変更し、強力なリーダーシップをつくり上げました。

 ブリア氏がなぜヨーロッパで注目されているのでしょうか。その一つの理由が、市民のデータ主権を取り戻すためのEU全体のイニシアチブである「DECODEプロジェクト」の創設者がブリア氏であること。もう一つの理由が、EUの法律「GDPR」を後押しする形でバルセロナとアムステルダムで2年間行われた「スマートシティ実証実験プロジェクト」について、ブリア氏が強い影響力を持っているからです。

 ブリア氏の考え方を一言で述べると、「テクノロジーは、市民や都市をサポートするだけに存在する」というものです。都市をスマートにするためには、基本的にインフラと行政機能を最適化するインテリジェントなソリューションが必要になります。例えば、センサーやネットワーク、アプリケーションなどを活用して、エネルギーの使用量や交通量とそのパターン、汚染レベル、その他さまざまなトピックに関するデータを収集・分析して、市民生活に役立てていく、という考え方が求められます。

 このシステムは、バルセロナにおいてもSmart Cities 1.0、2.0という経緯を経て展開してきました。しかし、大手テクノロジー企業に行政が丸投げしてスマートシティをつくってしまうと、街路灯と道路のセンサーとが連動しない、といったことが発生します。こうした状況が続くと、それぞれの企業の仕組みを一からつなぎ合わせなくてはならない、ということが、あらゆる環境で起こってしまうのです。そこでバルセロナでは「シティOS」と呼ばれる都市のOSを完全オープンソースでつくっています。

 その上で、バルセロナでは「Smart Citizen Kit」と呼ばれる簡易環境モニタリングキットを配布しました。このキットはバルセロナのシティOSと接続されて、粒子状物質や一酸化炭素、一酸化窒素、騒音といったさまざまな都市の環境問題全体を、市民の自発的な参加によって測定していくというものです。

 これが全てネットワーク上でオープンになると、どこの都市のどの場所でどれだけ騒音が発生しているか、どのような環境負荷が起こっているのかということをリアルタイムに見ることができるようになります。この簡易なキットだけでバルセロナの都市への市民参加が一気にリアリティを帯びました。現在では9000を超えるアクティブユーザー、実際のユーザー数は数万人規模になっています。一片のセンサーが都市を変えたという成功事例です。