DX時代の人材育成の鍵は「読解力」にあり

新井紀子教授が語る、AIで代替できない人材に必要なこと

JBpress/2021.2.22

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※本コンテンツは、2020年11月30日(月)~12月4日(金)に開催されたJBpress主催 「JBpress DX World 2020 第1回 デジタルの力で拓け、ポストコロナの未来」3rd weekでの講演内容を採録したものです。

国立情報学研究所 情報社会相関研究系
教授 新井 紀子氏

過度な期待から始まった「第3次AIブーム」

 本日は「DX時代にこそ求められる人材育成」というテーマでお話をさせていただきます。

 2016年ごろ、ありとあらゆる新聞・雑誌に「AI」の文字が躍っていましたよね。皆さんもシンギュラリティの到来を予想する声を多く耳にされたかと思います。しかし、去年あたりから「AI」よりも「DX」というキーワードを聞くことが増えたのではないでしょうか。これは、私の予想通りの展開でした。

 AI搭載のスマートスピーカーなどをご自宅で試されて、「この先にドラえもんのようなものが来るわけではないな」と感じられた方もいるはずです。多くの企業人も、家事ロボットが家事を全部代替したり、新入社員ロボットがオフィスでの仕事を丸っと代替したりすることは起こらないだろう、という印象を持ち始めたのではないでしょうか。2015~2016年に見られたAIへの「過剰な期待」が、昨今は「がっかり感」に変わってきているように感じます。

 本日は、そもそも「AIはどんなものなのか?」という仕組みをご説明し、皆さんのAIに対する誤解を解きほぐしながら、AIからDXへと話題を移していきたいと思います。そして、DXによってどんな時代がもたらされるのか、そこでビジネスマンとして生き残るためにはどんなスキルが必要なのか、あるいは、どんな人材育成が必要なのか、お話しします。

 まず初めに私が指揮した「ロボットは東大に入れるか」というプロジェクトをご紹介させてください。このプロジェクトを思い立ったのは、2010年のクリスマスくらいのことでした。この年、『コンピュータが仕事を奪う』(日本経済新聞出版)というタイトルの本を出しました。

 そして、その本の帯に、「ホワイトカラーの約半数は、機械代替される」という予想を書いたんです。世界で最初にその予想を書いたのは、おそらく私だと思います。しかし、その頃はまだAIというキーワードが世間に出ていなかったため、「機械がホワイトカラーの仕事を代替する」とはどのようなことか、ほとんどの方はイメージをつかめなかったのではないでしょうか。

 それでも私は、2010年代に「第3次AIブーム」が来ることを確信していました。そして、そこでAIに対する誤解が生まれ、期待がバブルのように膨れ上がり、大ブームが起こった後にそのバブルが弾けるだろうと思っていたんです。

 でも、バブルが弾けた後に元の世界に戻るかというと、そうではありません。私が2010年に予想したように、ホワイトカラーの仕事の50%を機械が代替する時代がやって来るはずです。そして、コロナ禍でのテレワークの広まりが、その状況の加速に拍車を掛けると思っています。

 続いて、私たちが作っているAI「東ロボくん」についてです。これは一つのAIではなく、たくさんのAI処理から成り立っていて、それを「東ロボくん」と呼んでいます。まずは、この「東ロボくん」をどうやって作っているのか、ひもといていきます。

 東ロボを作ると言うと、教科書や過去問、辞書から大量の知識を機械に学習させる、そういったイメージを抱かれるのではないでしょうか。2013~2014年ごろにはニューラルネットワークについてこのような説明がなされていました。

 ニューラルネットワークとは、左から右に「Input Layer」、「Hidden Layer(隠れ層)」、「Output Layer」と並んでおり、「Input Layer」と書いてあるところにデータが入り、「Hidden Layer」を経て「Output Layer」に結果が出てくるものです。だからといって、「Input Layerに大量の過去問をデジタル化して入力するとポンと答えが出るのだろう」というように思った人は、おそらく今回、“5000円の羽毛布団を500万円で買った人”です。

 このブームはもう一周してしまいました。銀行がコールセンターにAIを入れるところから始まり、50万円のものを500万円、場合によっては5000万円くらいで買ってしまった。しかし、なかなか精度が出ない。精度が出ないたびに言われることは「もっとデータが増えれば、精度は上がります」ということです。結果としていろいろなところでAIの活用が頓挫する、ということが起こっています。