・ベライゾン(1月12日)
会長兼CEOのハンス・ベストベリが(少し丸くなって)CES 2019以来の2度目の登場(エリクソンのCEO時代にも1度実績あり)。スポーツ(先述したNFL「スーパースタジアム・エクスペリエンス」)、教育(スミソニアン博物館、メトロポリタン美術館とタイアップ)、スマートシティ(サンノゼ市とのカーボンニュートラルに向けた取り組み、UPSのドローンによる医薬品のデリバリー)、ライブミュージック(ライブネイションクラブ&シアターとのパートナーシップ)の分野で5Gソリューションをプレゼンテーションしたものの、前回との既視感を感じた。また、繰り返しになるが、ユーザーが求める5Gならでは、の技術的なブレークスルー(エッジコンピューティングやスライシングなど)についての言及がなく、残念ながら筆者の期待を下回った。
・AMD (1月12日)
社長兼CEOのリサ・スー博士がCES 2020に続いての登場。AMDは彼女の功績により最先端CPU「Ryzenシリーズ」でインテルを駆逐し、モーメンタム(勢い感)が上昇中である。ゲームやコンテンツ作成を目的としたラップトップ向けの「Hシリーズ」とウルトラ・ポータブルノートブック向けの「Uシリーズ」の2つのカテゴリーを持つ「Ryzen5000シリーズ」のモバイルプロセッサを発表。パフォーマンスの高さと省電力を両立させた先進性は見るべきものがあるものの、「ビジョン」や「夢」を語らず、新製品の発表に終始してしまったのはCESの基調講演では「禁じ手(失格)」である。
・ウォルマート(1月13日)
倉庫係のアシスタントとして入社してから30年目を迎えたダグ・マクミロンCEOがCESに初登場。珍しくCTAのモデレータとのQ&A形式で基調講演が行われた。5G、AI、ロボット工学がいかにウォルマートのビジネスを変革してきたかについて語った後、ウォルマートの経営陣が従業員の健康と顧客の満足を維持するためにどのように「ピボット」(戦略の軸をぶらさずに戦術を臨機応変に変える)したか、人種のダイバーシティと気候変動のためにウォルマートがどんな貢献をしているのかを淡々と話を進めていったが、これらは想定の範囲内。ウォルマートといえば、衆目の関心はアマゾンとの正面対決であり、リアルとネットを融合させた「インホーム・デリバリー」のサービス動向や昨年6月に発表したカナダの通販サイト「ショッピファイ」との提携など経営者目線での戦略的な話に期待したが、CESというイベントの性格上、5G、AI、ロボット工学が入り口の中途半端な話になってしまったのはやむを得なかったのかもしれない。
・マイクロソフト(1月13日)
冒頭で紹介したように、社長のブラッド・スミスが登場。「テクノロジーはどこへ行くのか」というテーマを明確にして30分のプレゼンテーションを行った。マイクロソフトの「コロンビア・データセンター」(ワシントン州クインシー)をブラッド・スミス自身が紹介したり、レーガン政権時代にヒットしたSF映画「ウォー・ゲーム」を引き合いに出したりしながら、サイバーセキュリティの重要性と顧客のプライバシーを守るという企業マイクロソフトとしての「ビジョン」を示し、「テクノロジーに対して良心を行使するべき」とテック業界の責任について踏み込んだ提言を行った。見かけの派手さはないものの、ストーリー展開は極めてロジカルであり、ある意味、CES 2021の基軸を形成する重要なプレゼンテーションの1つであったと考えている。
「CESアンカーデスク」というテックの祭典らしい演出
以上、CES 2021の6つのキートレンドに沿った形でプレス発表や展示のハイライトをご紹介するとともに、基調講演の主なものをレビューしてみた。
2020年7月末に急遽、リアル開催から完全デジタル開催に方向転換が図られたことで出展社の減少が懸念されたが、エヌビディア、トヨタ、フォード、クアルコムなどCES常連企業の不参加はありながらも、結局は昨年の半数程度(約4000社→2000社)の出展は確保できたようである。
参加者目線で振り返った場合、完全デジタルでのCES 2021は精神的な高揚感や定点観測的な発見感は乏しかった一方で(ラスベガス特有のカジノ体験、シルク・ド・ソレイユ、ベラージオホテルの噴水ショーもなし)、移動時間ゼロ、時差ボケゼロ(睡眠不足になったが・・・)、移動コストゼロ、肉体的な疲労感の劇的軽減というデジタル特有のメリットも十分に享受でき、世界中の何十万人かのビジネスマンにとって「憧れのCES」が「身近なCES」になったことのメリットは大きかったように思う。
CES 2021という巨大なウェブサイトの運営でユニークだったのは男女2名ずつ、計4名のアンカーによるアメリカのニュース番組風のライブ感溢れる演出である。プレス発表、基調講演、セッションなどは番組内のニュースコンテンツという位置づけであり、コンテンツとコンテンツをアンカーの軽妙なトークで繋いでいく方式は、CESというイベントが「テックの祭典」であることをあらためて思い起こさせてくれた。
CES 2021サイトのUX/UIの側面では「My Show」機能を使って基調講演やセッションのスケジュールが組めたり、「Connect」→「My Message」によりSNS感覚で見ず知らずの外国人とネットワークングができたりするのは便利と感じた。また、英語も含めて17言語での字幕サービスや手話通訳の機能が得られることにも感心した(日本語の自動翻訳のレベルは拙かったが英語は完璧だった)。
あえて1つだけ苦言を言わせていただくと、サイトの運営がマイクロソフトだったこともあり、MacBook Proをメイン機として使う筆者は何度かシステムの不具合に見舞われ(字幕が英語以外選択できない、個人認証うまくできないなど)、会期中、2度ほど、部屋の隅で埃をかぶっているマイクロソフト・サーフェスに「緊急避難」を余儀なくされたのはご愛嬌だった。
2022はリアルとデジタルのハイブリッド開催に
CESの主催者であるCTAからは来年のCES 2022はラスベガスでのリアル開催を前提としながら、今年の実績を踏まえ、デジタルでのサイト運営も行う、とアナウンスしている。
リアル開催は新型コロナの収束次第という状況だが、仮にワクチンの効果で感染のリスクが大幅に下がり、国境を越えたビジネスパーソンの行き来が許される状況になっていたとしたら、筆者はためらうことなく、ラスベガス行きを選択するだろう。
なぜなら、その年の初めにCESに出向き、最先端テックを肌で感じることで「CXとDXの接点で難しい仕事に取り組む」というモチベーションが湧き出てくると信じているからだ。
CES 2021が閉幕した今晩、筆者の心は開催前夜にラスベガスのホテルが一斉に掲げたメッセージと全く同じである。
「WE MISS YOU, CES.」