完全デジタル開催「CES2021」の画期性と残念な点

オンラインイベント成功の鍵は「バーチャル密」をどうつくるか

朝岡 崇史/2020.9.15

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CES 2020開催日の朝、基調講演が行われるベネチアンホテルのボールルームへの長い行列が続く。会場に入れる保証のない行列に並ぶのは毎年の風物詩だ(筆者撮影)

(朝岡 崇史:ディライトデザイン代表取締役)

 世界最大規模の民生技術のイベント「CES 2021」が完全デジタル(All-Digital)開催へ。

 今年(2020年)7月28日、CESの主催団体であるCTA(The Consumer Technology Association)はプレスリリースを発表し、「新型コロナウイルス蔓延に対する懸念が地球規模で広がる中、2021年初旬に何万人もの人たちがラスベガスに集い、対面で商談を行うことはできない」という判断に基づいて、CES 2021はフィジカルなイベント開催は中止すること、CESの重要な構成要素である「基調講演やカンファレンス」「コンベンションホールでの展示」「ミーティングやネットワーキング」は高度にパーソナライズされたオンライン上の体験として提供されることを告知した。

 一方で再来年の「CES 2022」については、再び会場をラスベガスに戻し、フィジカルとオンラインを融合させたベストな形での開催を計画していることもアナウンスされた。

 このニュースは日本の国内では大きく報道されることはなかった。しかしながら、デジタル先端技術とカスタマーエクスペリエンス(CX)の接点を「なりわい」とし、毎年、CESで定点観察を行うことを仕事上の発見・気づきやモチベーションの源泉としている筆者にとっては少なからず衝撃だったと言わざるを得ない。

(筆者注)2020年9月11日(日本時間)には、CES 2021の会期が2021年1月11日(月)~同14日(木)に行われること、基調講演のスロットの1つにベライゾンのハンス・ベストベリCEOが2019年に続いて登壇することが主催者のCTAから発表されている。

「密接」や「密着」はコミュニケーションの基本

 筆者が衝撃を受けたその理由は3つある。

 1つ目は、(あえて誤解を恐れずに言えば)CTAの急激な態度変容(トーンダウン)に関する落胆だ。なぜなら今年6月15日、CTAは多頻度来場者に対してCES 2021を例年通りフィジカルイベントとしてフル開催する意思表明をメールで伝達した(文面の冒頭には、"CES 2021 planning is in full swing, and we are committed to bringing you the most influential tech event in the world." とある)だけでなく、6月24日には期間中の会場での防疫体制、ソーシャルディスタンス、医療体制に関する詳細なアンケートを行っていたからだ。

 新型コロナ・ワクチンの開発や治験が期待されてはいるものの、7月28日の発表からわずか5カ月後に世界中から約4400社、17万人以上(CES 2020の実績)のビジネスパーソンを集めたフィジカルイベントを実施することがいかにリスキーであるかは理の当然だ。しかし、筆者の頭の片隅にはCESを長年リードしてきたCTAなら「密接」「密着」が不可避なフィジカルイベントと新型コロナの防疫を両立させた綿密なオペレーションを見事にやってのけるのではないか、という浅からぬ期待も抱いていたのだ(実際、アンケートは具体的なアクションプランを期待させる内容だった)。

 2つ目の理由は、オンライン化することでCES体験の質が大きく低下してしまうことに対する、来場者視点での懸念だ。

 筆者は新型コロナ対策として忌避される「密接」や「密着」はコミュニケーションの基本であると考えている。

 CESの初日の早朝、その年最初の基調講演が行われるベネチアンホテルのボールルームに続く階段で行列を作って長い列を並ぶ高揚感(扉の写真参照)、コンベンション会場で押し寄せる雑踏の中でお目当てのプロダクトにたどり着いて出展企業の社員とやり取りする時の充実感、スタートアップが集まるサンズホテル1階のユーレカパークで興味深いテクノロジーを偶然探し出した時のセレンディピティ、そして会場、ホテル、レストランでの国境や業種の垣根を超えたネットワーキングなどは、すべて人と人との「密接」や「密着」が基本になっている。