完全デジタル開催「CES2021」の画期性と残念な点

オンラインイベント成功の鍵は「バーチャル密」をどうつくるか

朝岡 崇史/2020.9.15

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 その意味でデジタルでのパーソナライズ化(個人のニーズに対する最適化)は諸刃の剣だ。便利さと引き換えに、「密接」や「密着」がもたらす体験のエモーショナルな感動が失われる。日本からわざわざ時間とコストをかけてCES会場まで足を運ぶのは、生身の人間との「情報」の交換だけではなくライブな「熱量」の交換を通じて近未来に対する夢を共有できる体験を期待するからだ。

 そして3つ目はラスベガスという街の経済活動衰退に対するいささか感傷的な想いである。ラスベガスはカジノ&リゾートという基盤の上に、ビジネスコンベンション、ショー&エンターテインメント、ショッピングといった顧客体験を戦略的かつ多層的に積み重ねた世界でも稀に見る人工都市である。

 今年6月30日にはラスベガスの複数のホテルで演目を変えて定期公演を行っているサーカス団「シルク・ドゥ・ソレイユ」(太陽のサーカス団、本拠:カナダ・モントリオール)が、カナダの破産法に基づき会社更生手続きに入ること、劇団員3480人を解雇することを発表した(参考:「シルク・ドゥ・ソレイユ経営破綻 会社更生手続きへ」日本経済新聞)

 そもそもラスベガス市がビジネスコンベンションやエンターテインメントという新規ビジネスを誘致した背景にはバケーションシーズン以外の閑散期の集客という狙いがあった。

 CESもクリスマス休暇後の宿泊の谷間を埋めるだけでなく、イベントに関係する数多くのホテル(カジノ&リゾート)にコンベンション、エンターテインメント、飲食などの収益をもたらしていただけに、CESに代表される大規模イベントのオンライン化はシルク・ドゥ・ソレイユのように「密着」や「密接」を前提にしたビジネスモデルの崩壊を加速してしまうことを意味する。

 アフターイベントの楽しみが失われてしまうことで、CES体験に対する人々の印象も大きく変わってしまうのはきわめて寂しいことだ。

フィジカルからオンラインイベントへの先行事例、MWC 2020とIFA 2020

 今年に入って新型コロナ禍の影響でフィジカルからオンラインに軸足を移した代表的なテックイベントとして、2月末にバルセロナで開催される予定だったモバイル通信の「MWC 2020」(主催GSMA)と直近の9月3日~5日にベルリンで規模を縮小して開催された、世界最大級のコンシューマエレクトロニクスのイベント「IFA 2020」(主催メッセ・ベルリン)がある。

 MWC 2020については今年2月の上旬までは主催者のGSMAが予定通りの開催をアナウンスし、来場者の参加登録も受け付けていた。しかしその後、お膝元のスペインや近隣のイタリア、フランスでの新型コロナ感染の深刻化と、エリクソンやソニーなど影響力の高い出展者がイベントへの参加を相次いでキャンセルしたことで急速に風向きが変わり、直前の2月13日になって急転直下MWC 2020の中止がアナウンスされた。

 主催者のGSMAの見識を高く評価したいのは、MWC 2020の中止が決まった直後から今日まで毎日メール配信の形で登録者に対して記事やウェビナーのニューズレターを提供し続けていること、5カ月ほど時間はかかったが参加予定者が支払っていた登録料の全額を返金したことである(契約上は新型コロナ=不可抗力として返金を拒むこともできた)。

 フィジカルなイベントと比較してしまうと、メールを通じた記事やウェビナーによる情報提供は、体験としてのエモーショナルな深さは期待できないものの、英語のみによる配信という側面を無視すれば、専門性や即効性という面ではある程度満足ができるものだ。

 事実、筆者が冒頭で紹介したCES 2020の完全デジタル開催を知ったのも、CESの主催者CTAからのメールではなく、GSMAのニューズレターが最初の情報源だったことを付記しておく。

CES 2020の完全デジタル開催を伝えたMWCの主催団体GSMAによるニューズレター(2020年7月29日配信)
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