この間隙をうまく突いてきたのがソニーだ。2021年春に事業開始を予定しているドローン、ソニー「Airpeak」は「冒険的なクリエーターのために設計した」とされ、AIとロボティクスを活用して開発された。ソニーのハイエンドカメラ「αシリーズ」を搭載可能で、ハイクオリティな画質でダイナミックなリモート撮影を得意とするという。ソニーの記者発表では、技術検証のために冬のオーストリアで公道走行を行う「VISION-S」(CES 2020でソニーがお披露目したEV)をα搭載の「Airpeak」が追尾、ムービー撮影する様子が紹介されていた。ドローン市場の70%を占有する中国DJIと差別化を図るためにSTP(セグメンテーション/ターゲティング/ポジショニング)をずらしてきたところにソニーの戦略性が垣間見える。
また新型コロナの感染拡大の影響で、ドローンの用途も多様化していく。アマゾンが生活用品を配送ロボットで運び、貨物運送会社の米UPSは米ベライゾン・コミュニケーションズ(以下、ベライゾン)のSKYWARDチームと組んで医薬品の配送をするための活用を模索するなど用途も多様化していくことが想定される。
【ビークル(車両)テクノロジー】(やや落胆)
CES 2021ではエヌビディアの他、トヨタ、ホンダ、日産の日本の自動車メーカーも出展を見送り、筆者も含め、自動運転やMaaSの進化を目の当たりにしたい来場者を大いに落胆させた。
メルセデスベンツは独自の人間中心設計思想「MBUX」に基づくダッシュボード「Hyperscreen」を発表、BMWも近々発売されるEV「iX」に搭載されるインフォテイメントシステム・iDrive(アイドライブ)の進化系をお披露目したが、いずれも正常進化の域を出ない仕上がりであり、大きなインパクトは感じられなかった。
「Autonomous」や「MaaS」に変わってCES 2021でこのカテゴリーのキーワードに浮上してきたのが「Electrification」(電動化)という新たなキーワードである。ゼネラルモーターズのCEOメアリー・バーラが基調講演に登壇して注目を浴びたこともあり、「Electrification」については同社にほとんど全てを持っていかれた感がある。ゼネラルモーターズのEV戦略については、後ほど基調講演の項目で詳しく紹介する。
【5Gコネクティビティ】(再び落胆)
基調講演でベライゾンCEOのハンス・ベストベリがCES 2019に続き2年ぶりに登壇したので、この2年間の5Gソリューションの進捗を期待したが、モバイル・エッジ・コンピューティング(クラウドではなく利用しているその場近くでデータ処理を行う)やスタイシング(ユーザが必要なサービスのみを切り出して提供)など実用的な5G活用についての言及がなく、5Gソリューションの紹介の多くが「Nice to have」のレベルにとどまったのは残念に感じた。
展示に関しても昨年のCES 2020同様、5Gに特化した製品やソリューション、特に5Gならではのハイパフォーマンス(高速・低遅延・多数同時接続など)が期待できるミリ波対応のテクノロジーは希少な印象を免れなかった。ミリ波対応モバイルルーターを出展したCompal(台湾)、5Gのモバイルルーターを開発製造したInseego(米国)などが数少ない注目企業であった。
5Gについては今年6月にバルセロナで開催される予定(?)のMWC(モバイルワールドコングレス)に期待、ということかもしれない。
【スマートシティ】(今後に期待)
都市の機能の大部分は「モビリティ(移動)」である。したがってスマートシティをリードしてきたのは主に自動車会社であった。ところが、CES 2020で豊田章男社長がスマートシティの実験都市である「ウーブンシティ(Woven City)」構想を発表したトヨタや、CES 2018でジム・ハケットCEO(当時)が「TMC(Transportation Mobility Cloud)」を提唱したフォードが今回のCESには出展しないことが判明してから、スマートシティに対する筆者の期待もダダ下がり状態だった。
そんな中、良い意味で期待を裏切ってくれたのは、CES 2021の会期2日目のスポットライトセッションに登場し、光の技術を活用した新しいネットワーク構想「IOWN」(アイオン:Innovative Optical and Wireless Network)を打ち出したNTTである。インディカーレーサーの佐藤琢磨がナビゲータとして登場した約30分間のプレゼンテーションで、NTTの澤田純 代表取締役社長は、IoTやAIがさらに進化しスマートな社会が実現すると現在の生活基盤である電気だけでは大容量のデータの送受信をまかないきれなくなること、そこでNTTが開発し主に通信で使われてきた光技術を端末やサーバーの情報処理にも適用すること、そして具体的にはデバイス内のチップ間やチップ内のコア間の伝送、チップ内の信号処理なども電気から光に置き換えることで、光から電気への変換処理を不要にし、低消費電力や低遅延を実現できることを説明した。