メアリー・バーラCEOの下、EV改革に大きく舵を切った米ゼネラルモーターズの展示ブースのキービジュアル。画面の真ん中左の「GM」の企業ロゴが電気プラグを意識したデザインに刷新されていることに注目(出典:CES 2021のゼネラルモーターズの展示ブース)

(朝岡 崇史:ディライトデザイン代表取締役)

 世界最大規模の民生技術のイベント「CES」(シーイーエス)。世界的な新型コロナウイルスの感染拡大によって、今回は完全デジタルでの開催となったことは前回掲載の記事でお伝えした通りである(会期:2021年1月11日~1月14日。サイトは2021年2月15日まで閲覧可能)。

(参考)憧れのCESが完全デジタル開催で「身近なCES」へ
https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/63323

 筆者はカスタマーエクスペリエンス(CX)を専門とするコンサルタントである。例年と違い、「東京に居ながらにして」体験した完全デジタル版CES 2021の4日間を、マーケティングの視座、とりわけ「CXとDXの接点」からレポートしてみたい。

コロナ禍は「人間の良心」にも刺激を与えた

 まず、今回のCES 2021を象徴する、わかりやすい「見出し」をつけるとするなら、本記事のタイトルにもあるように「コロナ禍でDXが<堅実に>加速した」ということに尽きるだろう。

 単に「コロナ禍でDXが一気に加速した」というだけなら、昨年(2020年)春以降のリモートワークの普及やドキュメントクラウドの活用など、働き方改革の実践と重なる部分があり、多くの日本人も共感しやすいと思う。

 CES 2021会期の初日、メディア向けセッションである「CES 2021テックトレンドウォッチ」では、まずCESの主催者であるCTA(Consumer Technology Association:全米民生技術協会)のアナリストから「コロナ禍は、イノベーションを加速させる最大のチャンスである」と言及があった。

 英国の経済学者クリストファー・フリーマンの「イノベーションは不況の時にそのスピードを加速させ、景気が回復した時にその技術革新の大きなうねりを解き放つものである」という言葉に重ね合わせ、特にEコマース、オンラインショッピング、遠隔医療、ストリーミングビデオの4分野で技術の浸透が一気に早まっていることをデータで示す形で解説がなされた。

 同じくCES 2021 の会期初日に基調講演を行った米ベライゾンのCEO、ハンス・ベストベリも「新型コロナウイルスによりDXは5~7年早まった」と述べているし、マイクロソフトのCEO、サティア・ナデラも「2年かかるDXが2カ月で進んでいる」と発言していることから「コロナ禍でDXが一気に加速した」というCTAの見解に異論を挟む余地はないだろう。

 それでは「堅実に」という意味合いはどうか?

 それは「テクノロジーによる進化の負の側面」にテック企業が真摯に向き合い、解決に向けた糸口を真摯に模索しようという呼びかけが広くなされたことによる、というのが筆者の見立てである。

 CES 2021の会期の後半、基調講演に登壇したマイクロソフトのプレジデント、ブラッド・スミスが強くメッセージしたように「テクノロジーには良心はない」のである。世界的に関心が高まっている「カーボンニュートラル」への取り組みだけでなく、クラウドの活用と反比例して懸念が拡大する「データセキュリティ」の問題、AIの開発にいかにして人間性(ヒューマニティ)や倫理観を注入していくかというような、先進テクノロジーに関わる、多くの人たちがモヤモヤを感じていた課題提起が今回、マイクロソフトや独ボッシュのようにCESで存在感を放つ企業から発信されたことは大きな意味を持つ。

 またカンファレンスでは「生活者のプライバシーと信頼」についても話し合われた。アマゾン、グーグル、ツイッターのプライバシー責任者が、新しいプライバシー規制と生活者の信頼を高める必要性について話し合い、テック企業はユーザに対してデータの管理を一層強化する責任があると結論づけた。

 今回のCES 2021ではCES 2017のアンダーアーマー、CES 2018~2019のエヌビディアのように、垣根の向こうから突然乱入してきてテック市場をかき回すような風雲児は見当たらなかった。しかし、「テクノロジーによる進化の負の側面」の課題は、一企業や国という枠組みを超えて人類が協働して乗り越えなければいけない性格のものだ。CESのような世界のテック企業のリーダーが集まる舞台で解決に向けた建設的な話し合いが、なるべくオープンな形式で行われることが不可欠になる。「テクノロジーを扱う人間の良心」として、この「堅実な」流れが定着していくことを筆者は希望する。そしてこのことは必然的に「ポスト・ニューノーマルな社会をどう創っていくか」という議論に繋がって行く。

主催者CTAが指摘した6つのテックトレンド

 さて、「CES 2021テックトレンドウォッチ」で主催者のCTAが掲げた今年のキートレンドは以下の6つである。

2021 Key Trends出典:CTAのメディア向け資料より

・デジタルヘルス
・DX(デジタルトランスフォーメーション)
・ロボティクス&ドローン
・ビークル(車両)テクノロジー
・5Gコネクティビティ
・スマートシティ

 一瞬、意外に思ったことは、データ時代を牽引してきたAIやIoT(CES 2020でCTAはIoT=「Intelligence of Things」であるとわざわざ再定義した)が6つのキートレンドに入ってないことである。このことについてはCTAから特段に解説はなかったが、個々のカテゴリーを見ていくと、どれもAIやIoTとは不可分であることに気づく。つまり「AIやIoTは要素技術として先進テクノロジーの全てのカテゴリーに溶け込んでいる」と考えると腹落ちできるのではないだろうか。

 それでは、6つそれぞれのカテゴリーごとに、CES 2021における気になる動向や、筆者が目についた企業の取り組みについて順を追って紹介して行きたいと思う。

【デジタルヘルス】(大いに注目)

 今年のCES 2021イノベーションアワードを受賞した「Epsy」(英Epsy社)はてんかん患者・介護者・医療従事者を支援するアプリを活用したデジタルヘルスプラットフォームである。てんかんの発作、服薬コンプライアンス、トリガーの追跡などのために豊富な日記データを作成・共有することで、てんかんという不意に襲ってくる疾病の管理を少しでもしやすくしようとするのが狙いである。

 また、会期初日のメディアデーから存在感を放っていたのが日本のオムロンヘルスケアである。同社の循環器疾患事業ビジョン「ゼロイベント(脳・心血管疾患の発症ゼロ)」実現を目指した取り組みとして、昨年から米国で実証実験を進めていた遠隔での高血圧患者モニタリングサービス「VitalSight」(バイタルサイト)を発表した。高血圧患者が通信機能付きの血圧計や体重体組成計を使い、自宅で測定したバイタルデータを病院の電子カルテを介して医師や看護師と共有できるシステムである。このシステムを活用することで、患者と医療チームが直接面談することなく日々の体調を記録/通知することができ、また、日常での体調の変化をリモート環境下でもタイムリーに確認し介入できるようになるという。コロナ禍で定期的な通院が必要な高血圧症等の慢性疾患の患者の、通院による感染リスクの軽減にも貢献することができる。

 高血圧やそれに由来する脳や心血管系の疾患は死因の上位を占める重大な慢性疾患であり、患者が使いやすく、技術的・経済的な課題さえクリアされれば、患者の治療や生活習慣改善に向けて大きなイノベーションにつながる可能性が大きい。

オムロンの「VitalSight」のコンセプト(出典:オムロンブースのプレゼンテーション映像)

 CESの常連、フィリップスはCES 2018あたりから「家電」業から「デジタルヘルスケア」業への「なりわい」転換を鮮明にした企業である。インテリジェントプロセッサー「SenseIQ」とAI技術によってオーラルケア、ヘアケア、睡眠対策などデジタルヘルスケア商品を横展開して行くのが同社の戦略のようだ。今回発表した「PhilipsSonicare 9900 Prestige」はユーザにあった歯磨きのアドバイスをスマホのアプリ経由で提供するだけでなく、ユーザのニーズに直感的に適応することが可能になっているという。ちなみにフィリップスのコーポレートスローガンは「Together, we make life better.」である。

 健康管理のためのウェアラブルデバイスは腕時計型が主流だったが、今後はそれ以外のバリエーションも増えていくに違いない。昨年日本でも発売され、アマゾンでも5万円程度で購入が可能な指輪(リング)型のデバイス、フィンランドoura社の「oura ring」はアプリとの連動で発熱状況も確認できるので、新型コロナの初期の発熱を感知するのに役立っている。また、米BioIntelliSense社の「BioButton」(CES 2021 イノベーションアワード受賞)は肌に装着するタイプのデバイスである。米国のFDA(食品医薬品局)認証も受けており、CDC(アメリカ疾病予防管理センター)のガイドラインに沿ったバイタルデータによる健康管理も行えるという。

 CTAはデジタルヘルスを今後、最も成長が見込まれる分野&成長してほしい分野と位置付けているようだ。裏を返せば、医療やヘルスケアの領域にはペインポイント(患者が感じるストレス)が山積していて、デジタル化によってCX改善の余地がそれだけ大きいということなのだろう。

 CTAによれば、今後、デジタルヘルスでイノベーションの加速が期待される分野として「ロボットによるトリアージ(搬送や治療の優先順位づけ)補助」「AI診断」「製薬におけるXRの活用」などがありそうだ、という。

指輪型や皮膚装着型の健康管理ウェアラブルデバイス
(出典:CTAのメディア向け資料より)

【DX】(注目)

 ここでCTAが言う「DX」とは主に「家の中でのデジタル革命」を意味する。新型コロナ感染拡大の影響で「巣ごもり生活が続く中、家庭をいかに快適な場所に変えるか」というBtoC型の提案が際立っていたように感じた。

 具体的には「家庭の消毒や空気清浄のためのロボットの活用」「食材の調達・管理から料理レシピ提案までを行ってくれるインテリジェントな冷蔵庫」、そして「スポーツや音楽などを家庭で存分に楽しむためのエンタメ技術の開発」などである。

 消毒や空気清浄ロボットはLGの「CLOiUV-Cロボット」と次世代「LGPuriCare」ライン、AI掃除ロボットではサムスンの「JetBot 90 AI+」が、またインテリジェントな冷蔵庫でも(ここ2~3年の流れを受けて)韓国のこの2社の提案が目を引いた。

 エンタメ技術では、コロナ感染防止対策でスタジアムやコンサート会場へ行けないという前提の中、家庭でいかにライブの臨場感を再現するかという観点だけでなく、デジタル技術を駆使してリアルでも味わえない、新たな感動体験をいかに生み出すかという観点も強調された。

 ソニーが発表した「マディソン・ビアー イマーシブ(没入)リアリティ・コンサート」はフルモーションCG映画やゲーム、CGアニメの技術をふんだんに取り入れた取り組みである。数十台のカメラでアーチストのマディソン・ビアーを3Dスキャンして、本物としか思えないアバターを作成、さらにその動きをモーションキャプチャして、バーチャルなソニーホールの空間にリアルタイムレンダリングで降臨させるという壮大なチャレンジである(このプロジェクトにはベライゾンがコラボしている)。

(参考)Boundless by Sony マディソン・ビアーが創る没入型コンサート体験
https://www.youtube.com/watch?v=my_Byj82slQ&feature=emb_logo

 5Gを牽引するベライゾンが基調講演の中で紹介した、NFL(ナショナル・フットボール・リーグ)と組んで導入を進めている「スーパースタジアム・エクスペリエンス」もスタジアムの臨場感を家庭で味わえるだけでなく、5Gの測位誤差10センチ以下という特性を利用して、グラウンドレベルのプレイヤー目線でゲーム中の選手のファインプレイを正確に再現できるという感動体験創出型のサービスになりそうだ。

ベライゾンがNFLと組んで導入を進めている「スーパースタジアム・エクスペリエンス」(出典:CES2021のYouTubeチャネル)

【ロボティクス&ドローン】(やや注目)

 昨年のCES 2020までラスベガス・コンベンションセンターの南ホールで一大勢力を形成していたDJIを筆頭とする中国のドローンメーカーが知財問題や米国内での特許裁判の影響でCES 2021への出展を見合わせたことによって、ドローン市場の勢力図は今後少なからず変わることになりそうだ。

 この間隙をうまく突いてきたのがソニーだ。2021年春に事業開始を予定しているドローン、ソニー「Airpeak」は「冒険的なクリエーターのために設計した」とされ、AIとロボティクスを活用して開発された。ソニーのハイエンドカメラ「αシリーズ」を搭載可能で、ハイクオリティな画質でダイナミックなリモート撮影を得意とするという。ソニーの記者発表では、技術検証のために冬のオーストリアで公道走行を行う「VISION-S」(CES 2020でソニーがお披露目したEV)をα搭載の「Airpeak」が追尾、ムービー撮影する様子が紹介されていた。ドローン市場の70%を占有する中国DJIと差別化を図るためにSTP(セグメンテーション/ターゲティング/ポジショニング)をずらしてきたところにソニーの戦略性が垣間見える。

VISION-Sを追尾・撮影するソニー製ドローン「Airpeak」(出展:ソニーの記者発表映像)

 また新型コロナの感染拡大の影響で、ドローンの用途も多様化していく。アマゾンが生活用品を配送ロボットで運び、貨物運送会社の米UPSは米ベライゾン・コミュニケーションズ(以下、ベライゾン)のSKYWARDチームと組んで医薬品の配送をするための活用を模索するなど用途も多様化していくことが想定される。

【ビークル(車両)テクノロジー】(やや落胆)

 CES 2021ではエヌビディアの他、トヨタ、ホンダ、日産の日本の自動車メーカーも出展を見送り、筆者も含め、自動運転やMaaSの進化を目の当たりにしたい来場者を大いに落胆させた。

 メルセデスベンツは独自の人間中心設計思想「MBUX」に基づくダッシュボード「Hyperscreen」を発表、BMWも近々発売されるEV「iX」に搭載されるインフォテイメントシステム・iDrive(アイドライブ)の進化系をお披露目したが、いずれも正常進化の域を出ない仕上がりであり、大きなインパクトは感じられなかった。

「Autonomous」や「MaaS」に変わってCES 2021でこのカテゴリーのキーワードに浮上してきたのが「Electrification」(電動化)という新たなキーワードである。ゼネラルモーターズのCEOメアリー・バーラが基調講演に登壇して注目を浴びたこともあり、「Electrification」については同社にほとんど全てを持っていかれた感がある。ゼネラルモーターズのEV戦略については、後ほど基調講演の項目で詳しく紹介する。

【5Gコネクティビティ】(再び落胆)

 基調講演でベライゾンCEOのハンス・ベストベリがCES 2019に続き2年ぶりに登壇したので、この2年間の5Gソリューションの進捗を期待したが、モバイル・エッジ・コンピューティング(クラウドではなく利用しているその場近くでデータ処理を行う)やスタイシング(ユーザが必要なサービスのみを切り出して提供)など実用的な5G活用についての言及がなく、5Gソリューションの紹介の多くが「Nice to have」のレベルにとどまったのは残念に感じた。

 展示に関しても昨年のCES 2020同様、5Gに特化した製品やソリューション、特に5Gならではのハイパフォーマンス(高速・低遅延・多数同時接続など)が期待できるミリ波対応のテクノロジーは希少な印象を免れなかった。ミリ波対応モバイルルーターを出展したCompal(台湾)、5Gのモバイルルーターを開発製造したInseego(米国)などが数少ない注目企業であった。

 5Gについては今年6月にバルセロナで開催される予定(?)のMWC(モバイルワールドコングレス)に期待、ということかもしれない。

Inseegoが開発製造した5Gモバイルルーター(出展:Inseegoのブース映像より)

【スマートシティ】(今後に期待)

  都市の機能の大部分は「モビリティ(移動)」である。したがってスマートシティをリードしてきたのは主に自動車会社であった。ところが、CES 2020で豊田章男社長がスマートシティの実験都市である「ウーブンシティ(Woven City)」構想を発表したトヨタや、CES 2018でジム・ハケットCEO(当時)が「TMC(Transportation Mobility Cloud)」を提唱したフォードが今回のCESには出展しないことが判明してから、スマートシティに対する筆者の期待もダダ下がり状態だった。

 そんな中、良い意味で期待を裏切ってくれたのは、CES 2021の会期2日目のスポットライトセッションに登場し、光の技術を活用した新しいネットワーク構想「IOWN」(アイオン:Innovative Optical and Wireless Network)を打ち出したNTTである。インディカーレーサーの佐藤琢磨がナビゲータとして登場した約30分間のプレゼンテーションで、NTTの澤田純 代表取締役社長は、IoTやAIがさらに進化しスマートな社会が実現すると現在の生活基盤である電気だけでは大容量のデータの送受信をまかないきれなくなること、そこでNTTが開発し主に通信で使われてきた光技術を端末やサーバーの情報処理にも適用すること、そして具体的にはデバイス内のチップ間やチップ内のコア間の伝送、チップ内の信号処理なども電気から光に置き換えることで、光から電気への変換処理を不要にし、低消費電力や低遅延を実現できることを説明した。

 NTTの「IOWN」は世界を見据えた技術展開であり、毎年、CESが開催されているラスベガス市におけるスマートシティ化への取り組み(公共安全ソリューション)が知られている。CESのように多くの人が集まるイベント会場や市街地などにおける群衆の動き、交通状況、緊急事態の発生などを把握し、プライバシーに配慮しながら市民の安全を守ることは自治体、警察、消防など市当局にとって喫緊の課題となっている。このような状況を踏まえ、NTTグループはデル社と協力してラスベガス市の街区に高解像ビデオカメラ、音響センサ、IoTデバイスを配備し、現場状況の把握に役立つ各種情報を収集・分析していると言われている。

 仮にCES 2021が通常通りのリアル開催であれば、「IOWN」ソリューションの目玉であるラスベガス市での取り組みをプレゼンテーションで効果的に取り上げ、世界に向け、よりインパクトの強いアピールができたのではと思うと残念な気がしてならない。

NTT「IOWN」のコンセプト(出典:NTTのスポットライトセッションでのプレゼン映像)
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EVへの「なりわい」革新を鮮明にしたGM

 CESの場において基調講演は、企業のトップが「ビジョン」(ありたい姿)を熱く語り、夢を見せるための場所である(したがって新製品の紹介を羅列する講演は最悪の評価になる)。

 そういう意味でCES 2021で人々の記憶に残る基調講演を行ったのはゼネラルモーターズ(GM)の会長兼CEOのメアリー・バーラである。GM叩き上げであり、GMの社内大学で電気工学を専攻したメアリー・バーラは、コロナ禍でも地球温暖化による気候変動という社会課題に向き合い、ラインナップの完全電動化の移行を目指し、すべての人がEVに乗ることでその解決策の一端を担いたいとかねてから表明している。そして、CES 2021の直前のタイミングで、伝統的なGMのロゴマークから電気プラグを連想させる新ロゴへの変更を発表(この記事の冒頭の写真参照。これからゼネラルモーターズは小文字でgmと表記すべきか?)したことも極めて戦略的に映る。

CESの基調講演初登場で爪痕を残したゼネラルモーターズのCEO メアリー・バーラ(出典:CES2021のYouTubeチャネル)

 基調講演の前半では、

・2025年中に全世界で30車種のEVを投入し、3分の2以上を北米で販売。キャディラック、GMC、シボレー、ビュイックのすべての価格帯にEVをラインナップする

・ガソリン、ディーゼル車開発を上回る270億ドル(約2兆8千億円)を計画中のEVおよびAVに投資する

・2020年代半ばまでに「アルティウム」(Ultium)バッテリーパックの現行比60%のコストと2倍のエネルギー密度の実現を目指すとともに、「アルティウム」バッテリーEVの最大航続距離を450マイルにまで拡大する

と、昨年11月末にプレスリリースした内容を改めてコミットするとともに、2021年秋にリリースされる予定の「ハマーEV」(GMC HUMMER EV)についてはスペックの詳細を、キャディラック・ブランドで初のEV、「キャディラック・リリック」(発売は2022年前半)については完全ハンズフリー運転支援システム「スーパークルーズ」の自動車線変更機能などを映像で紹介した。

EV化でさらに高い動力性能を手に入れるGMC・ハマーEVは2021年秋の発売予定だ(出典:CES2021のYouTubeチャネル)

 また、基調講演後半においては、キャディラック・ブランドで開発が予定されているモノスペースのシティビークルや空飛ぶクルマ(eVTOL)のコンセプト映像を紹介し、B2B用途ではFEDEXが採用を決定した「EV600」と呼ばれるEVトラックや、EV600に搭載され、配達員を自動追従するデリバリービークル「Bright Drop」をお披露目した。

 自動運転についても、子会社のクルーズ・オートメーション(Cruise Automation)がサンフランシスコのサンセット地区で、シボレー・ボルトEVをベース車として完全自律走行の実証実験を行った映像を上映し、同州で自動運転車のテスト走行を行っているライバル企業のグーグル系のウェイモ(Waymo)、アマゾン系のズークス(Zoox)とともに高いレベルにあることを示した形になった。

(参考)GM傘下クルーズ・オートメーションの自動運転の実証実験
https://www.youtube.com/watch?v=Pa7xU7PW-oM&feature=emb_logo

GM以外の基調講演、CES 2021の基軸を示したMS

 ゼネラルモーターズ以外の主な基調講演のアウトラインと筆者の率直な感想は以下の通りである。

・ベライゾン(1月12日)

 会長兼CEOのハンス・ベストベリが(少し丸くなって)CES 2019以来の2度目の登場(エリクソンのCEO時代にも1度実績あり)。スポーツ(先述したNFL「スーパースタジアム・エクスペリエンス」)、教育(スミソニアン博物館、メトロポリタン美術館とタイアップ)、スマートシティ(サンノゼ市とのカーボンニュートラルに向けた取り組み、UPSのドローンによる医薬品のデリバリー)、ライブミュージック(ライブネイションクラブ&シアターとのパートナーシップ)の分野で5Gソリューションをプレゼンテーションしたものの、前回との既視感を感じた。また、繰り返しになるが、ユーザーが求める5Gならでは、の技術的なブレークスルー(エッジコンピューティングやスライシングなど)についての言及がなく、残念ながら筆者の期待を下回った。

・AMD (1月12日)

 社長兼CEOのリサ・スー博士がCES 2020に続いての登場。AMDは彼女の功績により最先端CPU「Ryzenシリーズ」でインテルを駆逐し、モーメンタム(勢い感)が上昇中である。ゲームやコンテンツ作成を目的としたラップトップ向けの「Hシリーズ」とウルトラ・ポータブルノートブック向けの「Uシリーズ」の2つのカテゴリーを持つ「Ryzen5000シリーズ」のモバイルプロセッサを発表。パフォーマンスの高さと省電力を両立させた先進性は見るべきものがあるものの、「ビジョン」や「夢」を語らず、新製品の発表に終始してしまったのはCESの基調講演では「禁じ手(失格)」である。

今回は新製品発表会になってしまったAMDのリサ・スー博士の残念な基調講演(出典:CES2021のYouTubeチャネル)

・ウォルマート(1月13日)

 倉庫係のアシスタントとして入社してから30年目を迎えたダグ・マクミロンCEOがCESに初登場。珍しくCTAのモデレータとのQ&A形式で基調講演が行われた。5G、AI、ロボット工学がいかにウォルマートのビジネスを変革してきたかについて語った後、ウォルマートの経営陣が従業員の健康と顧客の満足を維持するためにどのように「ピボット」(戦略の軸をぶらさずに戦術を臨機応変に変える)したか、人種のダイバーシティと気候変動のためにウォルマートがどんな貢献をしているのかを淡々と話を進めていったが、これらは想定の範囲内。ウォルマートといえば、衆目の関心はアマゾンとの正面対決であり、リアルとネットを融合させた「インホーム・デリバリー」のサービス動向や昨年6月に発表したカナダの通販サイト「ショッピファイ」との提携など経営者目線での戦略的な話に期待したが、CESというイベントの性格上、5G、AI、ロボット工学が入り口の中途半端な話になってしまったのはやむを得なかったのかもしれない。

・マイクロソフト(1月13日)

 冒頭で紹介したように、社長のブラッド・スミスが登場。「テクノロジーはどこへ行くのか」というテーマを明確にして30分のプレゼンテーションを行った。マイクロソフトの「コロンビア・データセンター」(ワシントン州クインシー)をブラッド・スミス自身が紹介したり、レーガン政権時代にヒットしたSF映画「ウォー・ゲーム」を引き合いに出したりしながら、サイバーセキュリティの重要性と顧客のプライバシーを守るという企業マイクロソフトとしての「ビジョン」を示し、「テクノロジーに対して良心を行使するべき」とテック業界の責任について踏み込んだ提言を行った。見かけの派手さはないものの、ストーリー展開は極めてロジカルであり、ある意味、CES 2021の基軸を形成する重要なプレゼンテーションの1つであったと考えている。

「CESアンカーデスク」というテックの祭典らしい演出

 以上、CES 2021の6つのキートレンドに沿った形でプレス発表や展示のハイライトをご紹介するとともに、基調講演の主なものをレビューしてみた。

 2020年7月末に急遽、リアル開催から完全デジタル開催に方向転換が図られたことで出展社の減少が懸念されたが、エヌビディア、トヨタ、フォード、クアルコムなどCES常連企業の不参加はありながらも、結局は昨年の半数程度(約4000社→2000社)の出展は確保できたようである。

 参加者目線で振り返った場合、完全デジタルでのCES 2021は精神的な高揚感や定点観測的な発見感は乏しかった一方で(ラスベガス特有のカジノ体験、シルク・ド・ソレイユ、ベラージオホテルの噴水ショーもなし)、移動時間ゼロ、時差ボケゼロ(睡眠不足になったが・・・)、移動コストゼロ、肉体的な疲労感の劇的軽減というデジタル特有のメリットも十分に享受でき、世界中の何十万人かのビジネスマンにとって「憧れのCES」が「身近なCES」になったことのメリットは大きかったように思う。

 CES 2021という巨大なウェブサイトの運営でユニークだったのは男女2名ずつ、計4名のアンカーによるアメリカのニュース番組風のライブ感溢れる演出である。プレス発表、基調講演、セッションなどは番組内のニュースコンテンツという位置づけであり、コンテンツとコンテンツをアンカーの軽妙なトークで繋いでいく方式は、CESというイベントが「テックの祭典」であることをあらためて思い起こさせてくれた。

「テックの祭典」を象徴する「アンカーデスク」の演出(出典:CES2021のYouTubeチャネル)

 CES 2021サイトのUX/UIの側面では「My Show」機能を使って基調講演やセッションのスケジュールが組めたり、「Connect」→「My Message」によりSNS感覚で見ず知らずの外国人とネットワークングができたりするのは便利と感じた。また、英語も含めて17言語での字幕サービスや手話通訳の機能が得られることにも感心した(日本語の自動翻訳のレベルは拙かったが英語は完璧だった)。

 あえて1つだけ苦言を言わせていただくと、サイトの運営がマイクロソフトだったこともあり、MacBook Proをメイン機として使う筆者は何度かシステムの不具合に見舞われ(字幕が英語以外選択できない、個人認証うまくできないなど)、会期中、2度ほど、部屋の隅で埃をかぶっているマイクロソフト・サーフェスに「緊急避難」を余儀なくされたのはご愛嬌だった。

2022はリアルとデジタルのハイブリッド開催に

 CESの主催者であるCTAからは来年のCES 2022はラスベガスでのリアル開催を前提としながら、今年の実績を踏まえ、デジタルでのサイト運営も行う、とアナウンスしている。

 リアル開催は新型コロナの収束次第という状況だが、仮にワクチンの効果で感染のリスクが大幅に下がり、国境を越えたビジネスパーソンの行き来が許される状況になっていたとしたら、筆者はためらうことなく、ラスベガス行きを選択するだろう。

 なぜなら、その年の初めにCESに出向き、最先端テックを肌で感じることで「CXとDXの接点で難しい仕事に取り組む」というモチベーションが湧き出てくると信じているからだ。

 CES 2021が閉幕した今晩、筆者の心は開催前夜にラスベガスのホテルが一斉に掲げたメッセージと全く同じである。

「WE MISS YOU, CES.」

CES 2021開催前夜にラスベガスのホテルが一斉に掲げたメッセージ(出典:CES2021のYouTubeチャネル)