X-roadを利用するインフラの例としては、「電子処方箋(e-Prescription)」があります。エストニアでは、医師の処方箋は「紙」ではなく、患者のID番号に紐付ける形でデータベースに記録されます。患者はただ、電子IDカードを持って近くの薬局に行けばよく、薬局では患者のID番号からデータベースに書き込まれている処方箋を確認し、薬を患者に渡すだけです。

エストニアの”e-Health”(電子医療)を支えるインフラ(出所)総務省

 患者が新たに医師にかかる時には、患者は医師が自分の医療記録にアクセスすることを許可します。これにより、患者が過去に複数の病院を転々としてきた場合でも、医師はその患者の病歴やアレルギーの有無などを把握することができます。

エストニアの“e-Health”(電子医療)(出所)“e-Estonia”資料をもとに筆者が加筆
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日本のマイナンバーカードの問題点

 このように、データプラットフォームは、まさに電子国家を支える基幹インフラです。この点、残念ながら日本のマイナンバーカードは、エストニアと同様のレベルでデータを共有し交換できるプラットフォームに基づいているとは言えません。

 日本の多くの人々は、マイナンバーカードを、コンビニでの戸籍謄本や住民票の入手に使っています。例えばパスポートを申請する際には、これらの紙を提出することになります。しかし、デジタル化を貫徹するならば、パスポート窓口に戸籍謄本や住民票などの「紙」を提出する代わりに、マイナンバーカードそのものを提示すれば済む仕組みにした方が良いはずです。

 また現在、引越しの際には転出届と転入届を両方出すことが求められています。しかし、データを日本中で共有できるプラットフォームがあれば、「転入先の役所にだけマイナンバーカードを提示すれば、後は転入先の役所と転出先の役所との間で自動的にデータ連携を行ってくれる」という仕組みが実現できるはずです。これらの仕組みができれば、日本の人々も、マイナンバーカードを便利なものと受け止めるようになるでしょう。

 新型コロナウイルスは、各国にデジタル化を促しています。その成否は、今後の経済成長力や疫病への頑健性を左右するでしょう。経済力の乏しかった小国エストニアが世界最先端の電子国家と称されるに至っている一方、相応のお金をかけてきたはずの日本のデジタル化が、多くの人々が不満を抱く結果にしかなっていないのはなぜか、今、真剣に考える必要があります。