現在、エストニアの人々は、結婚・離婚・不動産登記を除く行政手続の98%について、オンラインで週末でも真夜中でも済ませることができます。これによりエストニアの人々は、「役所に行って、書類を書いて、並んで、提出する」といった手続にかける時間を、年間約5日程度節約できているとのことでした。会社を作りたくなったら、夜中でもパソコンを開いて簡単な操作をすれば30分以内で設立でき、役所に出向く必要は一切ありません。最近ではエストニアで設立される企業の98%が、オンラインで設立されています。

 また、電子IDカードは、運転免許証、健康保険証、学生証なども兼ねています。エストニア当局によれば、このようなインフラを実現する上で重要だったのは技術ではなく、運転免許や健康保険、学校などを管轄している行政の「縦割り」そのものの解消でした。

 この点について、エストニア当局者は自らの「幸運」を率直に語りました。ソ連崩壊に伴い、独立前にソ連の統治に協力していた人々は事実上公職からパージされ、旧来のピラミッドがいったん崩壊しました。これにより、「お金はなかったが、しがらみもなくなった」ため、大規模な行政改革への抵抗が少なかったことが、デジタル化にとっては追い風になりました。

公開プラットフォームを利用してサービス提供

 電子IDカードのスペックやAPI(Application Programming Interface)は公開され、行政だけでなく民間企業もこのカードに紐付ける形で、さまざまなサービスを付加し、インフラを改良し続けていくことが可能です。これにより電子IDカードは、銀行カードやクレジットカード、ポイントカードなども兼ねることになりました。

 これを可能としているのが、インターネットを通じてデータを共有し交換できるプラットフォーム“X-Road”であり、開発言語は全てJavaで書かれています。行政や民間企業などさまざまな主体が、このX-roadを利用して広範なサービスを提供しています。

データプラットフォーム“X-road”(©e-Estoniaの資料をもとに総務省が作成)