ヒゲはなぜ生える?(写真:WavebreakMedia/イメージマート)
  • ヒゲは人類の祖先から相続したものなのか? しかし、動物界で人類に最も近い親戚とされるボノボを見ると、その口のまわりにはヒゲがない。
  • ヒゲは伸びるくせにアタマはハゲる。どうやら男性ホルモンの仕業であることがわかってきたが、ではなんでそんなことをしでかすのかは、いまだに不明。
  • 「進化論」で有名なあのダーウィンも解決できずに袋小路に陥った。ヒゲはなぜ生える?(前編)。(JBpress)

(*)本稿は『ヒゲの文化史:男性性/男らしさのシンボルはいかにして生まれたか』(クリストファー・オールドストーン=ムーア著、渡邊昭子・小野綾香訳、ミネルヴァ書房)の一部を抜粋・再編集したものです。

【後編】浮上する「ヒゲは武器」説!「オレのほうが強い」とライバルを威嚇、でも誇示しすぎない「無精ヒゲ」が実はモテる 

 文明は自然と闘っている。少なくとも顔の毛に関する限りこれは真実である。何世紀にもわたる闘いに毎年巨額の金が注ぎ込まれるが、この闘いが最初にどう始まったのか、立ち止まって考えてみる人はほとんどいなかった。

 自然はなぜ男に、そしてときに女にも、ヒゲを与えたのか。毎日かき落とすことを社会に求められる毛の帯が、どのようにしてほおとあごに生えるようになったのか。ヒゲの意味を発見したいならば、こういう基本的な問題から始めることが道理にかなっている。そのためには茫漠たる進化の道筋をみつめてみる必要があるだろう。

ヒゲの文化史:男性性/男らしさのシンボルはいかにして生まれたか』(クリストファー・オールドストーン=ムーア著、渡邊昭子・小野綾香訳、ミネルヴァ書房)

【著者】
クリストファー・オールドストーン=ムーア
アメリカ合衆国オハイオ州のライト州立大学で教鞭をとり、研究活動を行っている。大学のホームページによると、1992年にシカゴ大学で歴史学の博士号を取得。近代イギリス史専攻。宗教と政治の相互作用に関心を持ち、1999年に最初の単著として牧師ヒュー・プライス・ヒューズの評伝を刊行。次が本書である。

 ヒゲはもっと毛深かった祖先から相続したものであり、どういう理由にしても、私たちが裸のサルへと進化したときにその痕跡が残ったのだと考えたくなるだろう。けれども動物界で私たちに最も近い親戚であるボノボには、口のまわりに毛がない。正確には、人にはヒゲが生える場所に、毛がない。どちらかといえば人類は、体の他の部分で失った毛を顔に加えたようにもみえる。

ボノボの雄 出所:『ヒゲの文化史:男性性/男らしさのシンボルはいかにして生まれたか』(クリストファー・オールドストーン=ムーア著、渡邊昭子・小野綾香訳、ミネルヴァ書房)

 類人猿の祖先たちの顔に毛があったとしても、疑問は残る。男性には残ったのに、なぜ女性はこの毛を失ったのか。実際のところ、あごと唇の上の毛は、ヒトの男性に特有なのである。