天神様は、学問の神様であると同時に、文化芸術の神様でもある。太宰府天満宮はかねて、芸術の普及やアーティストの支援に取り組んできた。その大きな成果の1つが、国立博物館の誘致だ。九州国立博物館の建設用地約17万平方メートルのうち5万坪は、太宰府天満宮が寄贈したものだ。

太宰府の豊かな緑を映す九州国立博物館。設計は江戸東京博物館などを手掛けた建築家・菊竹清訓氏太宰府の豊かな緑を映す九州国立博物館。設計は江戸東京博物館などを手掛けた建築家・菊竹清訓氏

 現在の太宰府天満宮宮司・西高辻(1点しんにょうの“つじ”)信宏氏は、東京大学で美術史を学び、学芸員の資格を持つ。2006年にアートプログラムを始め、国内外のアーティストを招聘して作品制作や展示・収蔵の場を提供している。「境内美術館」と称し、境内各所や宝物殿で、多彩なアート作品の紹介も行っている。

天満宮の杜に鎮まるピラミッドのようなアート作品。田島美加氏による「エコー」と「ナルキッソス(太宰府)」(2021年/2022年)。写真は2022年5月に撮影したもので、「ナルキッソス」は2024年2月現在修理中天満宮の杜に鎮まるピラミッドのようなアート作品。田島美加氏による「エコー」と「ナルキッソス(太宰府)」(2021年/2022年)。写真は2022年5月に撮影したもので、「ナルキッソス」は2024年2月現在修理中

 藤本氏は西高辻氏から「1100年以上の伝統を引き継いだ上で、最先端の現代建築による仮殿をつくりたい」との依頼を受けたという。

「1100年の歴史を背負うという、その覚悟に強く心を動かされた。仮殿はわずか3年で解かれるが、その先の1000年につながるプロジェクトにしたいと考えた。仮殿の屋根の上で育まれる植物は、仮殿がなくなったのちも境内に植えられて生き続ける。建築の前後1000年を視野に入れるという、現代建築にとって希有なタイムスパンであり、われわれにとって思い入れの深いプロジェクトになった」(藤本氏)

 太宰府天満宮の境内、仮殿のすぐ近くには樹齢1500年を越す国指定天然記念物の大クスノキがある。仮殿を彩るクスノキの若木が、遠い未来にこれほどに育つと思えば気宇壮大だ。

 これからわずか3年弱しか見られない仮殿。その浮かぶ森は、季節につれて刻々と姿を変えてゆく。1度と言わず2度3度、会いに行きたくはならないだろうか。