同級生から手渡された注意書き

 裁判では、いじめの加害側とされる同期生が証人として出廷した。そこで彼女がSさんに手渡したあるメモが明らかにされたのである。修学旅行を欠席し、岩手に帰省するSさんへの注意事項が綴られたものだ。

 それは以下のようなものだ。

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・お店に入ってはいけない(コンビニもだめです)
・外食をしてはいけない
・新幹線、飛行機で寝てはいけない
・出された飲み物を飲んではいけない
・音楽を聴くのもだめ、ブランケットとかも使わない。雑誌、本もだめ
・携帯を使用してはいけない(緊急時はトイレの個室から)
・帽子は建物の中では取る。外を歩く時は必ず被る(暑くても外で絶対脱いじゃだめ)
・取材を受けちゃだめ(学校の許可を取っても受けないで)
・寮に荷物を送るのは30日指定。制服で帰ってきて
岩手についても絶対守ってください。
気を緩めていいのは「ただいま」って家に入ってから。
特に盛岡ではあなたは有名人です。
これ以上、悪名売らないでね。
秋休みゆっくり休んで、色々、同期の事とか考えてきて下さい。
この紙、常に持ち歩いて、守って!

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 帰省に際してはコンビニにも入るな、外食もするな、音楽を聞くな、雑誌を読むな、これ以上悪名を売るな――。「宝塚音楽学校の生徒らしく」というつもりなのかも知れないが、これほど事細かに行動規制を同級生が指示するというのは異常だ。Sさんが同級生からかけられていたプレッシャーの重さは想像以上だった。

 裁判官も驚いていたようだ。メモを渡したという証人に対し、「あなた自身は実家に帰省するとき、これを守っているのか?」と尋問したほどであった。

 また前述のように、裁判では、“財布事件”の落とし主が「Sさんに盗まれてはいません」と証言している。学校側が、いじめの加害者たちの言い分を鵜呑みにした実態も明らかになった。

 結局この裁判は2010年7月に学校側とSさん側で調停が成立した。骨子は、学校はSさんの卒業は認めるが、Sさん側は宝塚歌劇団への入団を求めないという内容であった。これでSさんが宝塚のステージに立つという夢は完全に断たれることとなった。

 Sさん側がこの内容で十分に納得していたかどうかは不明だが、大きな組織を相手に法廷闘争を続けるのはさぞ大変なことだったのだろう。こうしてSさんは失意のうちに宝塚を去った。