(英フィナンシャル・タイムズ紙 2023年6月26日付)

占拠地のロストフ州から撤退するプリゴジン氏。多くの支持者から握手を求められた(6月24日、写真:ロイター/アフロ)

 指導者としてのウォロディミル・ゼレンスキーを決定づけるイメージは、昨年2月25日に撮影された。

 ロシア軍の部隊が首都キーウ(キエフ)に迫るなか、ウクライナの大統領は側近とともに市内の街頭を歩き、「我々は皆ここにいる、我々の独立と我々の国を守っている」と言って市民を安心させた。

 さてここで先週末、ロシアの民間軍事会社ワグネルの兵士が一時、モスクワへ向けて行進するなかでウラジミール・プーチンが見せた態度と比べてみるといい。

 ロシアの大統領は快適なオフィスにいながら「裏切り」や「反逆」について怒りをぶちまけた。そして姿を消した。

 プーチンがモスクワを去ったとの噂が飛び交った。クレムリンの高官は後に、大統領は執務室で仕事をしていたと主張した。

 ゼレンスキーとプーチンのコントラストには目を見張るものがあった。

 一方が見せたのは勇気と同志の絆、国家的な結束の誇示だ。他方が見せたのは恐怖と孤立、分裂だった。

ロシア国民が目の当たりにした反乱劇

「プリゴジン反乱」は差し当たり終わった。だが、ロシア国内で状況が正常に戻れると考えるのは不毛だ。

 現実は何かと言えば、戻っていく正常などというものが存在しない。

 蜂起が起きたのは、プーチン・プロジェクトが瓦解しつつあるからだ。先週末の出来事の後、このプロセスは加速していく公算が大きい。

 プーチンが生き残りをかけた2つの戦線に直面していることは今や明らかだ。

 まず、ウクライナでの戦争がある。そして、自身の体制の内部の安定性がある。2つの戦線は互いに結びついている。