(英フィナンシャル・タイムズ紙 2023年6月6日付)

AIの進歩は私たちの生活を大きく変えることだけは間違いない

 米マイクロソフトが今年1月に「Chat(チャット)GPT」への大規模出資を発表して以来、メディアが人工知能(AI)を持ち上げて大騒ぎしている。

 その様子を見ていると、ドットコム・バブルのことを思い出さずにはいられない。

 このデジャブ(既視感)は先日、半導体大手エヌビディアの市場時価総額が一時、1兆ドルの大台に乗ったことでさらに強まった。

 同社はチャットGPTのAIアプリケーションで用いられるチップをはじめ、様々な半導体の製造で知られる。すわバブルの再来か、と思われた。

 実を言えば、その見方は正しくない。市場における今回のAIブームには、健全な面がいくつもある。

経済の仕組みを変える驚異的な力

 昨年のビッグテックの株価急落は、各国の中央銀行の利上げに関係するところが大きかった。

 利上げに伴って、テクノロジーセクターが遠い将来に手にするキャッシュフローの割引率が上昇し、将来のキャッシュフローの現在価値が縮小したからだ。

 翻って今年の株価上昇は、中央銀行の影響とはほど遠く、実体を伴ったものを反映している。

 人間の知的能力を機械で模倣するAIには、経済の仕組みを変える驚異的な力が秘められている。

 その過程で莫大な利益を手にする人も出てくる。エヌビディアは、すでに今年の段階で大もうけしている。