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写真:AP/アフロ

(文:春名幹男)

2024年の選挙で大統領返り咲きを目指すトランプ氏。機密文書隠匿で起訴されたことで米国民の分断化が進むが、そこにロシアと中国が情報工作を仕掛ける可能性がある。

 ドナルド・トランプ前米大統領が、国家機密文書をフロリダ州の自宅などに隠匿していた事件で起訴された。

 米国法の専門家によると、この種の事件は「機密情報手続き法(CIPA)」に従って審理を進めるため時間がかかり、裁判は長期化し、来年2024年11月5日の大統領選挙投票日の前に決着する可能性は小さい。弁護側も証拠調べで、「セキュリティ・クリアランス(機密文書取り扱い資格)」を持つ弁護士が1人以上必要だというのだ。

 前大統領は、ジョー・バイデン政権が「司法を武器化している」などと非難して支持を集め、逆にリベラル派市民は、トランプ氏は大統領には「不適格」と反発、米国民の間で分断が拡大しつつある。

 このため、共和党の大統領候補指名争いに関する世論調査でただ1人50%以上の支持を得て断然リードする「トランプ被告」が選挙の最大の「争点」となり、米国の歴史上初めての特異な大統領選になる可能性が大きい。

ウクライナ支援継続阻止へトランプ支持

 他方、米国のリーダーシップに挑戦するロシアと中国には、絶好のチャンスが到来する。前々回の2016年大統領選でトランプ氏を支援する秘密工作で成功したロシアは、前回2020年もトランプ氏を支援したが失敗した。

 今回は、敵国ウクライナの最大の支援国である米国の大統領選に介入する必要性が、さらに高まっている。ウクライナ支援の継続を明言しないトランプ氏に対する、ロシア側の期待は大きいはずだ。果たして、今回は米国のウクライナ支援阻止に向けて、どのような「秘密工作」に踏み切るのか、注目される。

 中国は前回も米大統領選に介入せず、「トランプ嫌い」の方向を示したとみられるが、今回は米国社会の「分断拡大」に向け、情報工作に乗り出す可能性がある。

 以下、事件の深層を追及すると同時に、米露情報戦争の行方も探っていきたい。

乱雑に文書を扱う前大統領

 今回の事件をホワイトハウスで前大統領と身近に接した元高官らはどう受け止めているのだろうか。

 ジョン・ケリー元大統領首席補佐官(元海兵隊大将)は「まったく驚かない」と『ワシントン・ポスト』に語っている。トランプ氏は在任中から機密文書の管理がずさんで、補佐官らは苦労させられたというのだ。

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