北九州監禁連続殺人事件の松永太は巧みなマインドコントロールで被害者を支配下に置いた(提供:アフロ)

 詐欺、強盗、脅迫、暴行、監禁、それぞれは単純な犯罪だが、巧妙に組み合わせると、抜け出すことのできない巨大なマインドコントロールの蟻地獄になる。加害者もまた、自分が作り上げたトラップを止めることができず、最終的に強奪と殺人の自転車操業のような凄惨な連続殺人事件に発展していく。

“あの事件”から20年が経過した今、『完全ドキュメント 北九州監禁連続殺人事件』(‎文藝春秋)を上梓したノンフィクションライターの小野一光氏に聞いた。(聞き手:長野光、ビデオジャーナリスト)

──2002年3月7日に、松永太と緒方純子という犯人2人の逮捕によって明るみに出た「北九州監禁連続殺人事件」は、起訴された案件だけでも7人が殺害されており、被害者の多い複雑な事件でした。あらためて全体像を大まかに教えてください。

小野一光氏(以下、小野):監禁されていた当時17歳だった少女が逃げ出し、祖父と一緒に警察に駆け込んだことによって事件は明るみに出ました。この時、少女は怪我をしており、監禁と傷害は間違いありませんでしたが、同時に、自分の父親が殺害されたことを彼女は警察に打ち明けたのです。

 少女が逃げ出した日の夜、祖父母のところに彼女を連れ戻しに向かった松永太と緒方純子が逮捕されました。これが一連の捜査の始まりです。そこから徐々に犯人の緒方の親族たちも行方不明であることが分かり、結果的に、少女の父親と緒方の親族6人が殺害されていることが明らかになりました。

──少女監禁から次々と別の事件が明らかになっていく様子を見ながら、どう思われましたか。

小野:まさかそこまで事件が広がっていくという予想はありませんでした。私は松永と緒方が逮捕された2日後に現場に入りました。

 少女が監禁されたマンションを取材すると、近所の住人からは異臭騒ぎの話や「ノコギリで夜中に何かを切っている音がした」という証言が出てきた。やがて殺人の事実が明らかになり、具体的な現場と証言がつながっていきました。そのようにして、あらためて幾度も驚かされていく事件でした。

 その後、裁判で明らかになっていくのですが、緒方の親族の殺害時には、松永は親族同士で殺し合いをさせていました。そして、亡くなった被害者の遺体の解体や遺棄なども親族にやらせていたのです。

 そのようにして、少しずつ数を減らしていくわけですが、松永本人は自分で手を汚さない。松永に命じられる、あるいは緒方の親族たちが松永に忖度する形で殺人が行われていった。このような事件はかつて例がなかったと思います。

──裁判の証言を通して、いかに恐ろしい虐待行為が長期間にわたり、あれほど多くの人々に対して行使されたのか、本書で詳細に紹介されています。松永がビジネスを持ちかける形で接近した広田由紀夫さん(仮名、以下同)への行為などは、読みながら冷や汗が出るほどの恐ろしさを感じました。