銀河の群れ集う大規模な銀河団Abell 2744。ハッブル宇宙望遠鏡による。(提供:NASA/ESA/STScI

(小谷太郎:大学教員・サイエンスライター)

 宇宙の深淵を望遠鏡で眺めると、恒星の集団がぽちぽちと浮いているのが見つかります。銀河です。

 銀河はいつ見ても変わらぬ光を放っているように思えますが、何億年、何十億年という長い時間では、銀河も変化したり成長したりします。

 銀河のうちあるものは、内部で次々に恒星が誕生して、次第に成長しますが、銀河の中にはほとんど成長を示さないものもあります。

 そうした違いはどうして生じるのでしょうか。銀河を成長させる因子はいったい何でしょうか。

 銀河団の中心銀河が持つ超巨大ブラックホールが、他の銀河の成長を左右しているという、驚きの結果が、すばる望遠鏡の超広視野主焦点カメラを用いる研究によって示唆されました*1、2。超巨大ブラックホールはどんな力で他の銀河を支配しているのでしょうか。

銀河団とはなんだっけ

 私たちの太陽は、「天の川銀河」に所属する1000億個の恒星のひとつです。1000億個の恒星というのは大変な規模で、地球の人口1人に恒星を10個ずつ配っても余りがでます(2023年現在)。

 宇宙にはそういう銀河がいくつも浮いています。宇宙の観測できる範囲内には、銀河が1000億個ほど浮いていると推定されます。つまり地球の人口1人に銀河を10個ずつ配っても余りがでます。

 ただし天の川銀河のように1000億個もの恒星を抱える銀河はかなり大きい方で、配られる銀河のほとんどはもっと小さいことを御了承ください。

 銀河は広大な宇宙に等間隔でばら撒かれているわけではなく、そこかしこに銀河の寄り集まったところがあり、また逆にほとんど銀河の見当たらない空隙もあります。銀河が100個以上集まった群れを「銀河団」と呼びます。

 典型的な銀河団は300万光年ほどの大きさを持ち、その内部は、ぽちぽち浮かぶ銀河に加えて、高温の「銀河団ガス」で満たされています。ガスといっても極めて薄く、人類の開発した最高性能の真空ポンプで作れる真空よりももっと希薄です。ガスの温度は数千万K~数億Kで、これは太陽表面よりも高温です。

 たいていの銀河団の中心には、大きな「楕円銀河」が主(ぬし)のように鎮座しているのが観察されます。楕円銀河とは、渦巻き銀河のような模様を持たない、ベタッとした手触りの楕円形の銀河です。

 ここまでが、今回の研究発表の舞台であるところの銀河団の紹介です。