安倍元首相の国葬で献花される秋篠宮ご夫妻(9月27日、写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

 9月25日、故・安倍晋三総理大臣の「声」をシステムに学習させた上、新たに書き下ろしたテキストを学習させ再現した「AI安倍晋三」(https://aiabeshinzo.com/)というコンテンツが不特定多数に公開され、賛否両論を引き起こしているようです。

 一方では、実弟である岸信夫首相補佐官がツイッターやフェイスブックでこの取り組みを紹介し、自民党議員らからも「優しさを、ありがとう」「涙が出る」など激賞があった(https://news.yahoo.co.jp/articles/decebb0c51f06f336b18d76587a05fc26ba7fd88)とのこと。

 その一方、「死者への冒涜」「遺族に許可を取っているのか?」などの反対意見(https://news.yahoo.co.jp/articles/8e57586aa101302b4dd1d6b7c7758f1a5d47593c)も出ているようです。

 いずれも主観に基づく意見であって、こうした技術の適用を客観的に判断する法的、倫理的な背景を欠いています。

 このケース、私が本連載で断続的に取り上げ、いまひとつ日本社会にはピンと来ないらしい「AI倫理」の問題点を最も鮮明に浮き彫りにしています。

 そこで専門の観点からシンプルに問題の所在を解説しておきたいと思います。

 なお、合成された音声は、明らかに模造と聴き分けられ、あくまで趣味で制作した模造品とすぐに分かる水準に過ぎません。

 製作者は「東京大学」のサークル名を称しているようですが、公式登録のある学生団体ではなく、本学広報も了解していないと回答して(https://www.itmedia.co.jp/news/articles/2209/26/news135.html)います。

 指定国立大学法人東京大学のオフィシャルな取り組みとは一切無関係であることを、冒頭に付しておきます。当然ながら一教官である私も一切関知するものではありません。

 以下では「優しさ」とか「冒涜」といった微妙に感情の入った、また白黒の結論が出ない微温な話ではなく、グローバルに問われるAI倫理の観点から客観的に検討してみましょう。