クリミア半島のロシア空軍基地で爆発が起き噴煙が上がる様子。ウクライナ軍が攻撃を支援するためにHARMを使用した可能性もある(2022年8月9日、写真:ロイター/アフロ)

(数多 久遠:小説家・軍事評論家、元幹部自衛官)

 アメリカがウクライナにHARM(ハーム)と呼ばれるミサイルの供与を行ったことを認めました。

 これは、ミリタリー関係者にとっては、高機動ロケット砲システム「HIMARS」(ハイマース)の供与にも勝るとも劣らない衝撃のニュースです。最初に破片が確認されたとの情報が入ってきた段階では、戦況への影響の大きさから、疑問視する声が大きいくらいでした。欧米の識者の中には、「少し危険に見える」とロシアによる過剰な反発を懸念する声さえあります。

 しかし、8月8日にアメリカのコリン・カール国防次官が、ウクライナに供与される最近のパッケージに「ウクライナの航空機から発射できる多数の対レーダーミサイル」が含まれていると発言し、AGM-88 HARMミサイルの供与が明らかとなりました。

 以下では、このHARM供与が、ロシアによるウクライナ侵攻に与える意義と影響を考察してみたいと思います。

「HARM」とは何か?

 HARMは「High-Speed Anti Radiation Missile」(高速対レーダーミサイル)を略したもので、正式な名称は「AGM-88」となります。

 HARMが配備される以前に、AGM-45およびAGM-78という2種のARM(対レーダーミサイル)があり、それらよりも高速なARMであることから、このように呼ばれます。

 レーダーは、目標を捕らえるために電波を放射(Radiate)します。ARMは、その電波を逆探知し、この電波放射源に向けて飛翔することで、レーダーを破壊するミサイルです。主として、警戒管制レーダーや地対空ミサイル(SAM:Surface-to-Air Missile)のレーダーが標的となります。