また、病原体の中には、姿を隠してオートファジーから隠れているものもいます。赤痢菌は、あるタンパク質で身を包んでオートファジーに察知されないようにしています。ステルス戦闘機みたいですね。

 ウイルスの中にはもっと悪い奴もいて、オートファジーを利用します。ポリオウイルスです。

 ポリオウイルスは神経を侵すことで手足などをまひさせる病気で、まひが一生残ることもあります。このウイルスは、オートファゴソームにわざと包ませておいて、そのオートファゴソームをリソソーム*2ではなく細胞膜と融合させます。だますんですね。そうやって細胞外に脱出して、感染を広げます。

*2 リソソームは、細胞内にある細胞小器官で、消化酵素が入っており、オートファゴソームが包み込んで運んできたものを分解する。

免疫機能が進化すると、病原体も進化する

 このように、病原体は生き延びるために必死で進化しています。そして、私たちの免疫機能もそれに対抗して進化をしています。

 オートファジーによって病原体を殺す機能も、元々はなかったと思われます。それは、原始的な生物について考えると明らかです。

 単細胞生物である酵母にはオートファジーはありますが、病原体は退治しないようです。そもそも酵母自身のサイズが小さいので、細菌は入れないし、特殊なウイルスしか感染しません。

 動物は、進化の間に本来栄養をつくったり新陳代謝に働いていたオートファジーを、免疫に使い回すようになったんですね。これは非常に賢いです。

 システムを一からつくらず、元々あるしくみを別の用途にも使い始めたわけですから。省エネで効率的です。生命はいつも合理的です。

 一方、ポリオウイルスは進化の結果、オートファジーを使って増えるという悪魔的な戦略に成功しました。やられたらやりかえすどころか、倍返ししたわけです。

 細胞では、こうした戦いが日々続いています。細胞が進化すれば病原体も進化する。倍返しどころか千倍返しになるかもしれません。これからも、病原体との戦いは続くでしょう。

 でも、さきほどお伝えした、病原体によるオートファジー妨害を妨害する研究のように、私たちも科学を使ってその戦いに参加しています。これが新しい人類の進化の形なのかもしれません。

 後編では、アルツハイマー病やパーキンソン病などの病気とオートファジーの関係、そして歳をとるとオートファジーの能力が低下する理由が見つかったことをお話しします。

※オートファジーおよび大隅良典氏の研究についてはこちらもご覧ください。
「オートファジー」が生命の根源に直結している理由
https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/48055

日本が本当に誇っていい今年のノーベル賞受賞
https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/48087

人類の親戚、酵母がもたらしたノーベル賞
https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/48099

独創性のおじさん~元同僚として見た大隅博士の素顔
https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/48616