たとえば、1908年にヘンリー・フォードがT型フォードをつくり、大量生産への道を開きました。しかし、T型フォードを購入した人々は、次にはどういう自動車を買うのでしょうか。ずっとT型フォードを購入し続けることはありえません。

 ところがヘンリー・フォードはそうは考えませんでした。「T型フォードは完成された完璧な商品」との考えに固執し、大幅なモデルチェンジや新型車の導入をしようとしませんでした。

 こうしたフォードの姿勢と対照的なシステムを導入したのが、ライバルメーカー、ゼネラルモーターズ(GM)の社長アルフレッド・スローンでした。

 スローンの自動車会社経営に関する哲学は、次の言葉に集約されています。

「アメリカ自動車業界での生き残りは、毎年新しい製品を送り出して買い手の心をとらえられるかどうかにかかってきた。ここで重要なのが年次モデルチェンジで、これを実現できなければ、市場から消えるほかないだろう」(『GMとともに』、アルフレッド・R・スローン著、有賀裕子訳、ダイヤモンド社、2003年)

 モデルチェンジを繰り返すと、消費者は新しい自動車を購入します。何年かするともっと高価な自動車を、消費者はGMから購入します。するとどんどん車を買い換えるわけですから、GMの売り上げは増え、経済は成長するのです。アルフレッド・スローンはそのことをしっかり見抜いていたのです。

大衆消費社会の誕生

 ヘンリー・フォードが切り開いた大量生産大量消費社会を、アルフレッド・スローンはより洗練されたものへと発展させました。こうしてアメリカでは、自動車が急速に普及します。自動車産業の隆盛は、アメリカ経済を大いに発展させました。

 それに伴い豊かになったアメリカの人々は、自動車以外の耐久消費財も買い求めるようになります。人々は、アイロン、電気掃除機、電気洗濯機、冷蔵庫などを購入しまた。また、そのために一生懸命に働くこともしました。それにつれ人々の賃金も上昇、家にはいくつもの耐久消費財が置かれるようになります。それはさらなる経済発展を促しました。

 こうして豊かになった人々こそ「ミドルクラス」と呼ばれるようになる層でした。この「自分たちが豊かだ」と実感する層が増大することにより、社会も安定するようになります。また彼ら豊かなミドルクラスが急拡大したことで、人々の所得水準の平準化が進みました。いわば格差の縮小が起こったのです。これらは、おおむね両大戦間期の出来事でした。