2014年、フランス人の経済学者トマ・ピケティが『21世紀の資本』(山形浩生・守岡桜・森本正史訳。みすず書房)を上梓しました。ピケティによれば資本収益率が産出と所得の成長率を上回るとき(19世紀はそうだったし、また今世紀もそうなる見込みがかなり高い)、資本主義は自動的に、恣意的で持続不可能な格差を生み出し、それが民主主義社会の基盤となる能力主義の価値観を大幅に衰退させることになります。
たしかに、どのような統計で見ても、世界の富は非常に少数の人々に集中する傾向がみられます。さらに、ピケティはこう言います。
「資本収益率(r)が経済成長率(g)よりも大きければ、富の集中が生じ、格差が拡大する。歴史的に見るとほぼ常にrはgより大きく、格差を縮小させる自然のメカニズムなどは存在しない」
本来、富の偏在は、租税制度や社会保障制度を通じた「所得再分配」によって解消されるものとされています。そうした制度があるにも関わらず、現実にはなぜ格差が広がってしまっているのでしょうか。
ここでは、消費社会から金融社会への変貌という観点から論じてみましょう。
耐久消費財の普及 自動車を買い換える社会
まずは耐久消費財の普及の様子について見てみます。単なる消費財ではなく、耐久消費財です。耐久消費財とは、かなり長期間にわたり消費される消費財のことをいいます。
それは、日々消費するコーヒーや砂糖などと比較すると高価であり、工場で生産される商品であることがふつうです。したがって耐久消費財の誕生とは、大量生産をする大規模な工場制度の誕生も意味するのです。
工場では大量生産がおこなわれ、それによって商品価格が大きく低下しました。それが大量生産を可能にし、大衆消費社会の形成に寄与したとされます。しかし、それだけでは社会を豊かにするのに十分ではありませんでした。