北朝鮮・万寿台に建つ金日成像と金正日像(Pixabay)

(平井 敏晴:韓国・漢陽女子大学助教授)

 北朝鮮をめぐる“ビッグニュース”に、世の中はずいぶんと振り回されたようだ。一部のメディアが金正恩の死亡は「確実だ」と報じつつも、アメリカや韓国の政府レベルでは、それとはずいぶん隔たったコメントを出していた。

 半信半疑で耳を傾けていた人も少なくないと思うが、しまいには、「金正恩死亡を99%確信」という衝撃発言が韓国で飛び出した。脱北者で元北朝鮮の高官、しかも4月半ばの総選挙で当選したばかりの人物が言い出したということもあって、報道はヒートアップした。だがその数日後には金正恩が姿を見せことが報じられると、盛り上がっていた報道合戦も一気にしぼんでしまった。

初対面のA氏に連れていかれた場所

 この一連の報道合戦を、私は不思議な感慨とともに見つめていた。かつて出会った北朝鮮人とのことが何度も思い返されたからだ。

 その人物(以下、A氏)と出会ったのは、中国の丹東である。鴨緑江河口付近に開けた中朝国境の町で、川を挟んで北朝鮮の新義州市に面している。金正恩が米朝会談でハノイに列車で移動したときは、この2つの都市の間にかかる鉄橋を渡った。

中朝国境の町、中国の丹東(Googleマップ)

 A氏は出会った当時、丹東駐在の北朝鮮法人で社長職にあった。それが本当なのかどうかはわからないが、ともかく、本人がそう話していたし、受け取った名刺にもそう書かれている。