カイロ大学とアイン・シャムス大学(カイロにある別の有名国立大学)の職員は、サダト政権(1970~81年)・ムバラク政権(1981~2011年)下において、大学で勉強したこともない多数の国内外の政治家、有力者、その関係者に学士の“不正卒業証書”が与えられたと述べた。

有力政治家の一声で名門大学卒の書類が

 また、エジプト最大の国営日刊紙「アル・アハラーム」や「アルジャジーラ」などで20年以上にわたって記者を務めたベテランのエジプト人ジャーナリストによれば、「エジプトの有力政治家が『この人物を卒業生にしろ』と命じれば、学長は職員に命じて卒業証明書や卒業証書を作らせる。職員は入学記録や初年度の成績などを参考に成績表も偽造し、大学内の記録も含めて形式的に完璧にする。したがって書類だけを見れば瑕疵がない」という。

 筆者が「それは政治家のプレッシャーに屈してそうするということか?」と訊くと、苦笑して「プレッシャーは必要ない。エジプトでは当たり前のこと。事務的に処理されるだけ」と答えた。

文学部の建物から見たカイロ大学構内(筆者撮影)

 同様の証言は他にも得られた。カイロ大学のマスコミュニケーション学部を卒業したカイロ在住のジャーナリストは、やはりサダト政権・ムバラク政権下において、多数の“不正卒業証書”が発給されたと指摘している。

 また日本の援助関係機関で管理職を務めるカイロ大学工学部卒のエジプト人男性は「金やコネでカイロ大学の卒業証書を手に入れることは、十分あり得る。日本の重要人物の関係者ならば、日本との関係をよくするために、(カイロ大学が)エジプト政府と話してのことかもしれない」と言う。

 日系新聞社のカイロ支局にリサーチャーとして勤務する女性は「政治家が『この人物を卒業したことにしろ』と言えば、当然、卒業したことにされて、“不正卒業証書”が発行される」と語ってくれた。