この報告を受けて、地上望遠鏡だけでなく、X線観測衛星ART-XC*2やニール・ゲーレルズ・スウィフト天文台*3もSgr A*を観測しました。果たしてSgr A*はX線やガンマ線でも明るくなっていることが報告されました。X線が爆発的に放射されることを「フレア」といいます。どうやらSgr A*はフレアを起こしているようです。

*2:M. Pavlinsky on behalf of ART-XC collaboration, 2019, ATel 13023, “ART-XC/SRG observes activity from Sgr A*
*3:Degenaar et al., 2019, ATel 12768, “Swift/XRT detects a bright X-ray flare from Sgr A*

 このようにSgr A*が急に明るくなったのは、何が原因でしょうか。誰がSgr A*に燃料を投下したのでしょうか。

 実は、Sgr A*に燃料を投下した容疑者の名はすでに挙がっています。「S0-2」という恒星と、「G2」という天体です。G2は塵天体ではないかという説もあります。

 S0-2は2018年に、G2は2014年にSgr A*に最接近しています。このときS0-2やG2を構成する物質(主に水素ガス)が剥ぎ取られ、Sgr A*に流れ込んだ可能性があります。その時の物質が2019年になってSgr A*の事象の地平線近くに到達して光りだしたのかもしれません。

 ただし、現在の質量降着の理論では、最接近から何年も経ってSgr A*が輝き出す時間差がうまく説明できません。

 Sgr A*は私たちに最も近い超巨大ブラックホールです。実際に物質が落ちたときに何が起きるかを観察できるのは、Sgr A*だけです。この観測は、質量降着の理論の試金石となるでしょう。教科書が書き変わるかもしれません。

 また私たちは、どの超巨大ブラックホールが活動銀河核となり、どれが活動をしない暗い核になるのか、その違いを生みだす機構をよく理解していません。もしもSgr A*が過去2万5600年以内に活動を始めたならば、活動銀河核の誕生がこれから観測できます。人類の活動銀河核についての理解は飛躍的に高まるでしょう。(ただしその知識と引き替えに、天の川銀河に住む生命は大絶滅を迎えるかもしれません。いくつもの惑星で(数万年の時間差で)同時に起きる大絶滅は「超巨大絶滅」とでも呼ぶべきでしょうか。)

 今後数万年は天の川銀河中心に注目です。