「IUT理論」の場合、読むべき論文が1000ページ以上もあるという別の問題もあるため、同列で語るわけにはいかないが、「受け入れがたい」という感覚で遠ざけていれば、新しいものは何も生まれなくなってしまう。著者は、そうした現状を憂えて、「IUT理論」の普及や理解のために本書を記している。そういう思いがあるからこそ、本書では、「IUT理論」がどのように「ABC予想」を証明するのか、については書かれていない。あくまでも、「IUT理論」がどういうものであるのかについて、噛み砕いて噛み砕いて噛み砕いた説明をしてくれるのだ。

「IUT理論」について著者は、

おそらく数学史上に匹敵するものを見出すことが難しいほどの、巨大な影響力をもつイノベーションを起こそうとしている

と書いている。もちろん、「IUT理論」が正しいかどうかなど、僕には判断できないが、「正しいと判断される日」を待ち望むことくらいはできる。そして、その日はおそらく、数学にとって新しい歴史がスタートする日になるのではないだろうか。数学に興味がなければ、そんな日のことはどうでもいいかもしれないが、「IUT理論」がもし正しければ、望月教授は大数学者として、永遠に数学の歴史に刻まれることになるだろう。僕が生きているうちになんとか正しさが証明されてほしいと願うばかりである。