史上初の実験成功 ― 3つの難関突破

【動画:画像をクリックして再生】TIR(中間赤外カメラ)によって撮影されたSCI。画像の上方がリュウグウの北極方向。はやぶさ2は上昇しながら、切り離したSCIがリュウグウに向かって降りていく様子を撮像している。(提供:JAXA、足利大学、立教大学、千葉工業大学、会津大学、北海道教育大学、北海道北見北斗高校、産業技術総合研究所、国立環境研究所、東京大学、ドイツ航空宇宙センター、マックスプランク研究所、スターリング大学)

 さて、「本当にやるのか」とメンバーが内心思ったほど難しい運用を成功させ、ミッション中も成長を続けるはやぶさ2チーム。担当者の皆さんは苦しい思いを抱き泣きそうになりながら開発していたことが、衝突実験後に開かれた記者会見で明らかになった。

 まず、はやぶさ2から切り離した衝突装置SCI開発担当であると同時に、探査機全体を統括するプロジェクトエンジニアでもある佐伯孝尚氏。半端ない威力をもった爆薬を内蔵したSCIを、「針の穴を通すような精度で」正確にはやぶさ2本体から分離させる必要があった。「小惑星に穴を開ける前に私の胃に穴が開きそうです」と言っていた佐伯氏に、どこが難しかったかを会見で改めて尋ねた。

「やり直しがきかないことです。2月に行ったタッチダウンでは、探査機が危険と判断すれば上昇して探査機を守ることができる。でも、SCI運用ではいったん衝突装置を分離したら、はやぶさ2は安全な場所に逃げるしかない。そこが非常にプレッシャーになっていた」(佐伯氏)

 いったん切り離したら後戻りはできない。探査機に委ねるしかなかった。一方、SCI開発担当としては「(2014年12月の打ち上げ後)、SCIをずっと寝かせておいたままだった。動作チェックはできるが、点火するわけにはいかない。ちゃんと分離するか、点火するかは一発勝負でした」。佐伯氏は、自身はネガティブな人間で衝突実験前夜は眠れなかったという。「胃に穴が開く前に成功できてよかった」と安どの表情を浮かべた。

 そして、衝突直後、リュウグウから噴き上がったイジェクタカーテンを見事に捉えた分離カメラ(DCAM3)。アナログカメラとデジタルカメラの2台が搭載されたが、実物大模型を見て驚いた。長さも直径も10cmに満たない小型カメラなのだ。