イラクでは、IS(イスラム国)との戦闘の影で、現在のアブドルマハディ政権などは、すっかりイランの影響下に置かれている。もともとアブドルマハディ首相も、イランの傀儡といえる「イラク・イスラム最高評議会」の幹部出身だ。

 クドス部隊はさらにイラク政府外に、大規模なシーア派民兵を組織している。もともと親イランの民兵組織はいくつもあったが、2014年6月にISの台頭を受けて、最強硬派である親イラン派「バドル軍団」(当時はイラク・イスラム最高評議会の軍事部門)を中心にいくつものシーア派民兵組織を糾合させ、「人民動員隊」(PMU)を結成させた。現地でこれを采配したのは、クドス部隊のカセム・スレイマニ司令官自身である。この人民動員隊は完全にイランの実質的な指揮下にある。人民動員隊自身が、イラン資金に頼っていることや、ほとんどの幹部がイランの指導下にあったことを認めている。イランのハメネイ最高指導者への忠誠を公言する最高幹部もいる。ハメネイ最高指導者も、人民動員隊を「国の宝だ」と表現したことがある。そして、イランの傀儡化したイラク国会は、2016年11月にこの人民動員隊を、イラク政府軍や警察を補佐する正規の部隊だと認定している。

 人民動員隊は現在、兵力約15万人もの勢力に成長している。また、ISとの戦闘においては、クドス部隊のスレイマニ司令官の指揮下で、革命防衛隊自身も戦闘部隊を派遣して参戦している。イラクでの対IS戦においては、米国とイランはISという共通の敵に対処するため、表立っては敵対してこなかったが、クドス部隊はその間隙を縫って影響力を劇的に浸透させた。現在、ISが放逐されたイラクでは、北部のクルド人地区を除き、国土の過半となるシーア派地域の大部分で、実質的なイランの支配が実現しつつある。

 それだけでなく、人民動員隊はスンニ派地域にも進出している。しかし、このイラン革命防衛隊の傀儡部隊である人民動員隊は、スンニ派住民に対してきわめて残虐な弾圧を行っている。現地の人々にとっては、ISが人民動員隊に入れ替わっただけのようなものだ。こうした人民動員隊の活動は、宗派対立を決定的に悪化させ、イラクの安定を破壊するものといえる。

アサド政権の残虐行為をリード

 イラクでのイラン革命防衛隊の勢力伸長よりも、さらに深刻なのがシリアだ。

 自国民を大量殺戮しているシリアのアサド政権を、イランは2011年の住民デモ勃発当初から支援している。初期の頃からクドス部隊の工作員自身がシリア反体制派への攻撃に参加しており、直接デモ参加者を殺戮する様子や、弱気なアサド政権兵士たちに檄を飛ばす場面の映像などもネットに流出している。

 アサド政権の兵力不足を補うために、ヒズボラ、イラク人シーア派民兵(中核は「殉教者大隊」。指揮官のアブ・ムスタファ・シェイバニは元バドル軍団幹部で、現在はクドス部隊工作員)、アフガニスタン人(シーア派のハザラ人)傭兵などが参加しているが、当然ながらクドス部隊の工作である。シリア内戦の推移をみると、クドス部隊こそがアサド政権陣営の残虐行為をリードしてきたことが分かる。

 一時は劣勢だったアサド政権を蘇らせ、さらなる住民殺戮に道を開いた戦犯といえばロシア軍だが、ロシア軍はあくまで空軍力による空爆がメインであり、地上戦でのアサド政権陣営の兵力確保はクドス部隊が担当した。いくら空軍力は一方的だったとはいえ、地上戦の兵力がなければアサド政権は戦えない。クドス部隊の工作がなかったらアサド政権はとっくに敗北していた可能性が高く、アサド政権による一般住民の犠牲者数を考えるとクドス部隊の罪はきわめて重い。

 シリアでのこれらの工作を直接取り仕切ってきたのも、クドス部隊のスレイマニ司令官だ。本人の姿が、イラクやシリアの戦闘最前線でも頻繁に目撃されている。スレイマニ司令官は、2015年夏にアサド政権が劣勢に陥った際に、モスクワを何度か訪問しているが、ロシア軍がシリア内戦に参戦するのは、その直後の同年9月である。間違いなくスレイマニ司令官とロシア軍中枢で、シリア内戦への介入に関して綿密な打ち合わせが行われているが、タイミングからすると、むしろスレイマニ司令官側がロシア軍を引き入れたようにもみえる。