3日から4日にかけて出てきた経済・企業関連の様々なニュースは、「いま世界経済で何が起きているのか」という疑問に対する答えをはっきりと指し示したものと、筆者は受け止めている。

 筆者がリポートなどで掲げてきた、世界経済を把握するためのキーワードを、再確認のためにいくつか並べておきたい。1987年グリーンスパンFRB(米連邦準備理事会)誕生後に膨らんだ米国の「20年バブル」の崩壊。借金やキャピタルゲインに依存する形で92年頃から膨らみ続けてきた米家計の「過剰消費」の崩壊。モノとマネーの両面で世界経済がリンクを強めている中で起こった「ドミノ倒し」的な世界同時景気後退。

 米国の過剰消費によっていわば「底上げ」されてきた世界経済の需要レベルは、「床が抜けた」かのごとく突然、大幅に下方シフトすることになった。しかし現在はまだ、世界の需要レベルがどこまで下方シフトするのかが把握できていないという、いわば途中段階。企業はあわてて必死に生産面でブレーキをかけて、在庫の積み上がりを止めようと試みているものの、「逃げ水」的な需要の減少に対して、減産の動きは後手に回った状態にある。

 また、生産の水準が急速に切り下がることで、機械設備の稼働率が急低下している。米国の製造業は設備稼働率が昨年12月時点で70.2%まで低下。日本の製造工業の稼働率(稼働率指数の実稼働率換算)は昨年11月時点で70.4%となっており、12月の生産が急減したことを考慮すると、同月時点では60%台前半に落ち込んだものと推測される。

 人口動態ゆえに国内需要の「地盤沈下」が不可避的に続いている日本の製造業は、外需依存度を必然的に高めざるを得ない。このため、稼働率の落ち込み方は日本の方が米国よりもきつい、という窮状に陥っている。

 機械設備の遊休度合いが増し、雇用人員の所定外労働時間が減少、さらには雇用人員そのものが余剰ということになってくると、設備投資計画の大幅な圧縮(ひいては工場閉鎖・設備廃棄)や、大規模な雇用・賃金調整が、企業の生き残りのためには不可避ということになってくる。

 「ダウンサイジング」の加速を、日本を含む各国の企業は迫られているというわけである。のみならず、需要のレベルシフトに合わせる形での供給サイドのスリム化は、プレーヤーの数が減少する方向へと、世の中を動かしていく。

 3日に明らかになった速報値で、米国の昨年12月の新車販売台数は前年同月比▲37.1%の大幅減となり、年率換算で1000万台割れ。957万台という実績は、81年12月以来の低水準である。米政府の資金支援を受けた大手自動車メーカーが販売促進策を展開した模様だが、効果は乏しかった。

 米国人の購買行動に劇的な変化が起こっており、「過剰消費」の崩壊プロセスの終了が一向に見えてきていないことが確認されたと言えるだろう。クレジットカード社会の変化を伝える報道も少なくない。

 日本の最大手家電メーカーからは4日、「ダウンサイジング」の加速を明確に示す発表があった。2008年度連結決算の最終損益予想を▲3800億円という大幅な赤字に下方修正したこの企業は、雇用人員を国内外あわせて1万5000人削減するという大規模なリストラ策を発表。削減は国内と海外で半分ずつ行い、国内の正社員も対象となる。

 電機大手8社のうち、2008年度に赤字にならない見通しとなっているのは1社のみとなっており、赤字予想の他の大手も雇用人員の削減に着手している。自動車、鉄鋼、化学といった製造業の他の業界でも、大手企業の多くが赤字予想に転じており、雇用・賃金情勢が今後悪化していく裾野は広い。

 大規模な人員削減を発表した上記家電最大手の役員は記者会見で、「パソコン、AV、携帯電話など、どの業界も縮小していて底が見えない。この状況は1~2年続く」と発言したという(2月5日付 朝日新聞)。米国ひいては日本で景気回復が実感される時期は、早くても2010年の後半ということになるだろう。

 足元では、米国債の大量増発に圧迫されつつ、長期金利は内外で上昇方向に動いている。だが、本リポートでも説明した世界経済の状況に鑑みると、それがそのままトレンドになるとは、筆者には到底思えない。景気・物価・金融政策動向をベースにした内外長期金利の低下予想を、筆者は堅持している。