問題は、桜田大臣のように国のサイバーセキュリティに責任のある立場の人物が、それを担うのに適材がどうかということだ。
とはいえ、桜田大臣のようなサイバー担当者が世界にいるのかを比較するのは難しい。大臣のような責任者を置いていない国もあるし、この分野では情報機関や軍部がかなり力を持っている国などもあるからだ。
そこで例えば世界最強のサイバー国家である米国がどうサイバーセキュリティ政策を進めているのかを見てみたい。
米国のサイバー政策界隈にはさすがに桜田大臣ような人物はいない。実は、米国では2018年4月から、ホワイトハウスでサイバー政策を専門に担当していた人たちが相次いで退職している。ホワイトハウスでトップを務めていたのが、NSA(国家安全保障局)の元幹部であり、米国でも選りすぐりの凄腕ハッカー集団を率いていたロブ・ジョイスだった。だが彼も今では退職し、NSAに復職した。
また彼の直属の上司であった国土安全保障及び対テロ担当大統領補佐官のトム・ボサートもジョイスより少し先に離職している。
在任時は、ジョイスとボサートが政権のサイバー政策を担っていた。実は、当時新しく政権入りしたばかりだったジョン・ボルトン大統領補佐官が自分の影響力を行使するために、このサイバー担当のポストを撤廃するのに動いたと言われている。ジョイスらの退職後は、その役割は別の担当者が引き継いでいるとされる。ただもちろん、ジョイス時代よりも「サイバー政策は後退した」(政府関係者)と弱体化が指摘されており、今はその穴埋めをNSAやサイバー軍が埋めるようになっていると聞く。
また米国でインフラなどへのサイバー攻撃対策を担当するのは、キルステン・ニールセン国土安全保障長官だ。名古屋へ留学経験があるニールセンは近々更迭されるとの噂も出ているが、彼女はトランプ政権で長官に就任する前、米ジョージ・ワシントン大学のサイバー・国土安全保障委員会センターの上級メンバーだったことから、サイバー分野にも精通している長官である。
英国では、テロ・犯罪担当大臣がサイバーセキュリティを担当
ちなみに軍部を見ると、サイバー軍と、凄腕ハッカーらを抱えるNSAのトップは日系人のポール・ナカソネ陸軍中将で、もともと陸軍のサイバー部隊を率いていたサイバー戦のプロ。彼の上司にあたるジェームズ・マティス国防長官もトランプ政権に入る前からサイバーセキュリティの重要性については深く理解しており、例えば2009年には、統合戦力軍司令官時代に応じた雑誌のインタビューでもサイバー攻撃との戦いについて知見を見せている。
ここまで見ても、米国のサイバー政策を担う幹部に「パソコンを使ったことはない」という人物がいるはずもないことがわかるだろう。
少し他の国も見てみたい。基本的に世界でも米国のように防衛や攻撃、犯罪などサイバーといっても担当は分かれている場合は少なくない。また首相府などに専門施設を置いている国も少なくない。首相府にサイバー分野を取り仕切る国家サイバー局があるイスラエルでは、そのトップに情報機関でもサイバーセキュリティに携わっていた人物が就いている。英国では、テロや犯罪などの担当大臣が、サイバーセキュリティ担当も担っている。英国については最近、サイバーセキュリティ専門の閣僚を任命すべきとの議論も出ていたが、現時点でそのアイデアは見送られている。またオーストラリアはサイバーセキュリティに特化した大臣を置いていない。
そのほか、シンガポールは首相府にサイバーセキュリティ局を置いており、そのトップは英ロンドン大学キングス・カレッジで電子・電気工学を学び、米ハーバード大学への留学経験もある専門家である。
いずれにせよ、コンピューターを使ったことがないという人がこうしたサイバーセキュリティ関連組織のトップになるという話は筆者は聞いたことがない。