迎撃ミサイルを発射するアイアンドーム(イスラエル国防軍サイトより)

 中東の一角で、敵対するアラブ諸国に囲まれる小さな国、イスラエル。

 これまでイスラエルは、中東和平問題などでもめている隣のパレスチナなどと事あるごとに衝突してきた。そんな時はミサイルがイスラエルに飛来することになる。

 そうして常に敵のミサイル攻撃による脅威にさらされているイスラエルだが、イスラエル軍は国民を守るために世界的にも名高いミサイル防衛システムを配備している。そう、「アイアンドーム」である。

 アイアンドームは直訳すると「ドーム型の鉄の天井」ということになるが、その名が示す通り、イスラエル上空にレーダー網を敷き、国外からのミサイルを迎撃して破壊する防衛システムだ。その迎撃成功率たるや、イスラエルによれば、85~92%にも達するという。

 先日、このアイアンドームのコマンド制御システムを開発したイスラエル企業「mPrest(エンプレスト)」の創設者でCEOのナタン・バラク氏と話をする機会があった。バラク氏は今、このアイアンドームを支える同社のスキルを、世界で電力インフラに活用するという別の挑戦に乗り出していると強調していた。アイアンドームを作り上げた企業が、なぜ電力インフラの世界に進出するのかーー。エンプレスト社の取り組みを探ってみた。

無駄撃ちしないアイアンドームの制御システム

 そもそもアイアンドームというのはどういうシステムなのか。

 アイアンドームは、2011年に配備が始まった対空迎撃ミサイルシステムだ。開発には、同盟国である米国が13億ドルを提供している。世界にその名を轟かせたのは、2012年と2014年に起きたパレスチナ自治区ガザ地区を実効支配するイスラム原理主義組織ハマスとの紛争だった。ハマスが放ったミサイルやロケット攻撃を見事に迎撃しているシステムとして話題になったのである。

 そんなアイアンドームは、可動式の3つのユニットから成る。まずレーダーがイスラエル領内に向けて飛んでくるミサイルを察知し、システムのソフトウェアがその弾道を瞬時に予測する。そしてミサイルユニットから、タミルという名のミサイルが発射され、敵のミサイルなどを捕捉して破壊する。

 アイアンドームの凄いところは、捕捉・破壊の技術だけではない。無駄撃ちはしないことにある。どういうことかと言うと、システムがミサイルの落下地点が人口密集地かどうかなど、被害の可能性も瞬時に判断し、人がいないようなエリアにミサイルが落ちる場合には迎撃しない。

 これにより、1発が約5万ドルと言われるタミル・ミサイルを発射するコストを抑えることができるという。さらには、迎撃時にはその破片がなるべく地上で二次被害を生まないようにも計算して破壊するらしい。こうした技術を実現するには、その基幹となるシステムがかなりの正確性と成熟度を保証する必要がある。