サウジリスク台頭でも上がらない原油価格

供給過剰で積み上がる原油在庫、さらに忍び寄る需要鈍化の影

2018.10.26(金) 藤 和彦
    http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/54479
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 サウジアラビアの脱石油経済化を強力に推進しているムハンマド皇太子の主導により、10月23日から首都リヤドで「未来投資イニシアティブ」が開催されている。だが事件発覚後、欧米の政府閣僚や金融機関のトップなどから欠席表明が相次ぎ、「砂漠のダボス会議」と呼ばれた昨年の華やかさとは様変わりである。ムハンマド皇太子の強権政治の影響から国内投資が冷え込んでおり、海外からの投資も落ち込むことは必至の情勢だ。何より問題なのは「ムハンマド皇太子自身が最大のリスクである」と国際社会が気づき始めたことである(10月19日付ブルームバーグ)。

 経済の苦境を脱するために原油売却から得られる収入に頼らざるを得ない状況下では「原油価格は高ければ高いほどありがたい」というファハド氏の本音が垣間見えたのが先述の発言だったと筆者は考えている。だがサウジアラビアの増産姿勢が改めて鮮明になったことが原油価格への下押し圧力となり、原油収入は逆に減ってしまう(10月23日の会議でファリハ氏が重ねて増産の方針を述べたことで原油価格は1バレル=66ドル台にまで急落した)。

ムハンマド皇太子は窮地に

 日本のメディアでは「事件にムハンマド皇太子が関与したかどうか」に焦点が集まっている感が強いが、欧米メディアでは「ポスト・ムハンマド皇太子」の議論も出始めている(10月19日付ZeroHedge)。その最有力候補はムハンマド皇太子の実弟であるハリド駐米大使(28歳)だ。ハリド氏は既にサウジアラビアに帰国したとの情報がある。

 殺害されたカショギ氏はかつて情報機関のトップなどを歴任したトルキ・ファイサル王子の顧問を務めるなど王室と太いパイプを持っており、ムハンマド皇太子のやり方に反対する王子のグループに属していたと思われる。この事件を契機に反対派の王子達が一気に勢力を盛り返す可能性がある。

 トランプ大統領は欧米首脳の中で唯一サウジアラビアを擁護しているかに見えるが、トランプ大統領の「サウジアラビアの投資が米国の雇用に欠かせない」との論調に対して「儲け最優先」との批判が出ている(10月18日付ロイター)。

 しかしトランプ大統領が本当に頭を悩ませているのは、娘婿であるクシュナー氏とムハンマド皇太子との関係ではないだろうか。

 米国の民主党下院議員は「クシュナー氏がカショギ氏をサウジアラビアの敵対者リストに加えたことが元々の原因だ」と述べている(10月22日付CNN)。ムハンマド皇太子は「なぜ米国はこの事件でこんなに怒っているのか。西側諸国が自分に対する立場を窮地に追い詰めたことを決して忘れない」とクシュナー氏に対し怒りを爆発させたとの情報もある(10月21日付アルジャジーラ)。24日には「トランプ大統領はこの事件で激怒しており、サウジアラビアに失望した」(CNN)、「米国政府は皇太子の交替を要求した」(フィナンシャルタイズム)と報じられている。

 原油市場はサウジリスクを現段階で織り込んでいないが、窮地に追い込まれた手負いの獅子であるムハンマド皇太子の次の一手でサウジアラビアリスクは一気に顕在化してしまうのではないだろうか。

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経済産業研究所上席研究員。1960年、愛知県生まれ。早稲田大学法学部卒。通商産業省(現・経済産業省)入省後、エネルギー・通商・中小企業振興政策など各分野に携わる。2003年に内閣官房に出向(エコノミック・インテリジェンス担当)。2016年から現職。著書に『日露エネルギー同盟』『シェール革命の正体 ロシアの天然ガスが日本を救う』ほか多数。

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