こうした一連の研究を受け、2013年6月には、WHOの諮問機関である「ワクチンの安全性に関する諮問委員会」が「HPVワクチンは世界で1億7000万回超が販売されており、多くの国で接種されている。市販製品の安全性に懸念はないことを再確認した」と総括している。

 このような見解を述べたのは、WHOだけではない。2015年11月には、欧州医薬品庁(EMA)が、HPVワクチンは安全であるとの声明を出している。この声明の中で、“Review concludes evidence does not support that HPV vaccines cause CRPS or POTS”という強い論調で副作用の懸念を否定している。“CRPS or POTS”とは日本の医師たちが指摘したHPVワクチンの副作用のことだが、WHOは日本でのワクチン騒動を意識して、それを否定する声明を発表したわけだ。ところが日本のメディアは、この声明を取り上げなかった。

 以上、わが国でのHPVワクチン騒動以降の世界での研究の動きを紹介した。もちろん、どんなワクチンにも副作用はある。わが国の接種者の一部に重大な副作用が生じた可能性は否定できない。ただ、ワクチン接種の是非を議論する際に重要なのは、効果と副作用を冷静に天秤にかけることだ。その際には正確な情報が欠かせない。日本のメディアは、その役割を完全に放棄している。本稿がその一助になれば幸いである。

上昌広
特定非営利活動法人「医療ガバナンス研究所」理事長。 1968年生まれ、兵庫県出身。東京大学医学部医学科を卒業し、同大学大学院医学系研究科修了。東京都立駒込病院血液内科医員、虎の門病院血液科医員、国立がんセンター中央病院薬物療法部医員として造血器悪性腫瘍の臨床研究に従事し、2016年3月まで東京大学医科学研究所特任教授を務める。内科医(専門は血液・腫瘍内科学)。2005年10月より東京大学医科学研究所先端医療社会コミュニケーションシステムを主宰し、医療ガバナンスを研究している。医療関係者など約5万人が購読するメールマガジン「MRIC(医療ガバナンス学会)」の編集長も務め、積極的な情報発信を行っている。『復興は現場から動き出す 』(東洋経済新報社)、『日本の医療 崩壊を招いた構造と再生への提言 』(蕗書房 )、『日本の医療格差は9倍 医師不足の真実』(光文社新書)、『医療詐欺 「先端医療」と「新薬」は、まず疑うのが正しい』(講談社+α新書)、『病院は東京から破綻する 医師が「ゼロ」になる日 』(朝日新聞出版)など著書多数。

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