このコラムは毎週金曜日にリリースしている。そのために、エジプトをはじめとする中東の騒乱情勢を記そうとする時、偶然ながら奇妙な困難にぶち当たることになる。
毎週金曜日が、イスラム教徒にとっては最も重要な「金曜集会」の祭日であることは幾度か触れた。そして、このところのエジプト情勢は、金曜のモスクでの礼拝のたびごとに、新たな局面を迎えている。
1月28日には最初の大規模デモが発生し民主化の旗手となっているエルバラダイ氏が警官隊に包囲されたりした。2月4日には大統領を支持する側の勢力と改革を求める人々とが衝突し、大規模な流血の惨事となった。
2月11日は日本では祝日に当たるため、今週は水曜日に記事のリリースとなっているが、11日もやはりエジプトでは聖金曜日の集会があり、そのあとまた間違いなく、何らかの動きがあるだろう。
願わくは「血の金曜日」の混乱が早急に収まり、国内の治安が一日も早く回復することを期待したい。
政府側からの事態収拾のキーマンとなったスレイマン副大統領は、反体制勢力「ムスリム同胞団」などとの折衝で、サダト前大統領の暗殺以来、ムバラク政権の強権政治を象徴していた非常事態宣言を解いた。
30年ぶりに「平時」の下での新体制確立をアピールしたい考えのようだが、やはりカギを握っているのは治安警察や情報機関、それに軍であるように思われる。
だがそんな中で、市民側に意外な展開が見られたのが目を引いた。「ヒトの鎖」だ。
図式的な宗教対立を超えた連帯
周知のようにイスラム教徒は1日に5回の礼拝を義務づけられている。その礼拝の間は、市民勢力内のイスラム教徒は武器を手放さざるを得ない。
この時間帯、イスラム教徒たちを守って、非イスラム教徒、つまり「礼拝をしない市民」たちが、彼らをぐるりと取り囲んで護衛する姿が見られた。
この「礼拝しない市民」の大半はキリスト教徒だった。ただしカトリックやプロテスタントなど、私たち日本人にも少しは知られたクリスチャンとはちょっと違う。
原始キリスト教団から分かれてアフリカで発展した「コプト派」と呼ばれるキリスト教徒たちで、教義も儀礼もカトリックなどとは大いに異なっている。