要するに、中国による軍事的優勢掌握が完成しつつある反面、かつて軍事的優勢を手にしていたアメリカは有効な巻き返し策を見出せないでいる、というのが現在の南シナ海の軍事情勢である。

再び用い始めたサラミ戦術

 このような状況下で、米国の積極的な軍事介入を避けつつ、南沙人工島の軍備をさらに増強させ、人工島以外にも実効支配する領域を拡大していくことが中国の戦略である。そこで中国は、再びサラミ戦術を用い始めたようだ。

 フィリピン軍によると、中国人工島の1つであるミスチーフ礁とフィリピンが軍隊を駐屯させているラワック島の中間に位置するジャクソン礁を、中国海軍が軍艦の「泊地」化しつつあるという。

 ジャクソン礁はかつてはフィリピン漁民たちにとって漁場として親しまれていたが、昨今は中国側によってフィリピン漁民は排除されてしまったそうである。そして、人工島基地群の完成が近づきつつある現在、ジャクソン礁では数多くの中国海軍艦艇などが投錨したり出動準備をしている状況になっている。

 このように、中国はジャクソン礁を、アメリカをはじめとする国際社会の耳目を集める人工島建設ではなく、静かに軍艦の停泊地としてしまうことにより実効支配を確立してしまおうというのである。まさにサラミ戦術そのものだ。

 そして8月に入ると、中国政府は海洋捜索救難船「南海救-115」(中国交通運輸部南海救助局所属)をスービ礁(人工島の1つで3000メートル級滑走路が設置されている)に派遣すると発表した(冒頭の写真)。南海救-115はスービ礁に一時的に派遣されたのではなく、今後はスービ礁を母港として南沙諸島での海難事故に備えるとのことである。やはり、国際社会の耳目を集める軍艦の母港化ではなく、救難船を配置に付けるというサラミ戦術によって、より一層中国の実効支配体制を固めていくのが狙いであろう。