柳沢 疫学調査ですから被験者は多ければ多いほどいいのですが、調査には人手が相当かかり、また加速度計などハードウエアのお金もかかります。そういう手間やお金、時間を鑑みて、実行可能なのが1000人くらいだろうということで、目標にしています。

 また、逆に1000人いれば、いろいろなことを統計的に有意なレベルで言うことができます。

――この研究に関連して、先行する研究はあるのでしょうか。

柳沢 似たようなことを考えている人は、世界の睡眠学者でも複数いますが、実際には意外とやられていません。世界中に睡眠の疫学はいろいろあるのですが、全部自己申告です。極端な場合は「あなたは何時間寝ますか」というアンケートだけです。ものすごく不正確なのです。

 一方では、スマートフォンやガジェットを使ったアプローチもあります。あれも活動計が入っているので、体が動いているか評価できます。あれはものすごい数のデータを集められますが、活動計だけで睡眠量を正確に測定するのも、やはり難しいのです。

 我々の場合は、活動計の測定に加えて、睡眠日誌を付けてもらって、両方から見ていきます。そういう精度で1000人以上の規模で行う調査はほとんどありません。うまくいけば、意義は大きいと思います。

必要な睡眠量を確保せよ

――働く人たちの睡眠について、思うことはありますか。

柳沢 「短い時間で、睡眠の質を高めて効率よく眠るには、どうしたらいいですか」とよく聞かれるのですが、それは「ゴール」が間違っています。その人にとっての必要な睡眠量は削ることはできません。

 僕のよく知っている臨床研究者が言うのですが、睡眠というのは住宅ローンみたいなものだと。要するに、1日24時間の中で絶対に必要な、一番に確保しなければいけないベース支出なのです。だから、自分に必要な睡眠量を確保してほしいということですね。確保できない人は、どうして確保できないのか考えてみてください。

 人間の大人の必要な睡眠量は、ほとんどの人は「7プラスマイナス1時間」くらいとされています。「自分はそんなに寝てない」という人は、客観的に測定すれば睡眠不足なのです。

 都市部で通勤時間が長いというのも問題です。これもはっきりした疫学調査があるのですが、睡眠時間は通勤時間と強い相関があって、通勤時間が往復で2時間長くなると、睡眠時間が1時間短くなるのです。おそらくは、朝の片道分に相当する時間が削られるのでしょう。非常に根が深い問題です。