本流トヨタ方式の土台にある哲学」について、「(その1)人間性尊重」「(その2)諸行無常」「(その3)共存共栄」「(その4)現地現物」という4項目に分けて説明しています。
企業を取り巻く利害関係者との関係を表す「(その3)共存共栄」は「本流トヨタ方式」の根幹を成す考え方であり、行動規範でもあるので、詳しく説明しています。
前回までに、「共存共栄」の圧巻、宿命のライバルGM(ゼネラル・モーターズ)と合弁会社NUMMIを設立し、生産が軌道に乗るまでの様々なエピソードをお話しし、本流トヨタ方式の何たるかを説明しました。
その後、トヨタ自動車はNUMMIで得たノウハウを生かして、カナダのオンタリオ州と米国のケンタッキー州に単独で工場を建てて、自動車を生産していきます。
州政府の力でUAW(全米自動車労働組合)勢力を遮断
NUMMIとケンタッキー工場(TMMK:Toyota Motor Manufacturing Kentucky)の違いを、従業員という観点から見てみましょう。
NUMMIは元々GMの工場だったこともありますが、募集した従業員は、カリフォルニアという土地柄もあり、自動車に関する教育をあまり必要としない知識層、都会人が多く、逆にトヨタ方式を教え込むのには手間取りました。
一方、トヨタが選んだケンタッキー州は、南北戦争時代は南軍に属し、主戦場にもなった州です。北部の人間を「ヤンキー」と呼び、征服者というイメージを持っているようで、今でも「よそ者」が移住してくることを好みません。
ケンタッキー州政府には、州の雇用を拡大したいという思惑がありました。そこで、TMMKの従業員募集に当たっては、1次選考を全面的に引き受けてくれました。
州政府の力でUAW(全米自動車労働組合)の勢力を遮断してもらえたことは、トヨタにとって大変にありがたいことでした。
NUMMIはUAWと共存共栄体制を敷くことができましたが、それはGMという巨大な会社の全面的なバックアップがあったからです。また、UAWはNUMMIに限って労働条件に合意したのであって、この合意を全米にわたって展開することはできませんでした。世界中、どの国の自動車会社も、北米に進出する時は、UAWの勢力を排除したいというのが本音だったのです。
従業員が研修を受けにケンタッキーから日本へ
また、この採用活動で、トヨタは素朴で純真な、優秀な人材を数多く採用できました。トヨタ方式は早く覚えてくれましたが、自動車そのものの教育にはNUMMIより多くの時間を必要としました。