本流トヨタ方式の土台にある哲学」について、「(その1)人間性尊重」「(その2)諸行無常」「(その3)共存共栄」「(その4)現地現物」という4項目に分けて説明しています。
企業を取り巻く利害関係者との関係を表す「(その3)共存共栄」は「本流トヨタ方式」の根幹を成す考え方であり、行動規範でもあるので、詳しく説明しています。
前回までに、「共存共栄」の圧巻、宿命のライバルGM(ゼネラル・モーターズ)と合弁会社NUMMIを設立し、生産が軌道に乗るまでの様々なエピソードをお話しし、本流トヨタ方式の何たるかを説明しました。
その後、トヨタ自動車はNUMMIで得たノウハウを生かして、単独でカナダのオンタリオ州と米国のケンタッキー州に工場を建てて、自動車を生産していきます。今回はその過程で学んだこと、特に地域との関わりについてケンタッキー工場を中心にお話しします。
日本車の人気の秘密は燃費と品質
トヨタがGMとの合弁会社MUNNIを準備している頃、日本車の対米輸出には自主規制がかけられていました。とはいえ、元々売れる車でしたので、数量を限られたことで定価の上にプレミアムを付けて売る状況になり、トヨタをはじめ日本の自動車メーカー各社は大きな利益を得たのでした。
日本車の人気が高かったのは、排ガス規制に真正面から取り組んで、燃費が良い高性能のエンジンを搭載していたからだと前回お話ししました。何よりも、日本車は品質の作り込みがしっかりとなされていて、故障しにくかったのです。
故障しにくいということは、使いやすいだけでなく、当時の米国車に比べて、手放す時に中古車としての価値が高いということです。ユーザーにとっては、大変にお買い得な商品でもありました。
しかし、トヨタがNUMMIでカローラを生産する際にその品質が悪ければ、「悪貨が良貨を駆逐する」例えのごとくカローラ全体の価値をおとしめてしまう結果になります。
そこで、NUMMIで生産準備をする際の一番の課題は、日本で作っているカローラと全く同じレベルの品質を実現することにありました。そのために、前回お話ししたように幹部を日本で教育するなどの様々な施策を打ち、中には日本でも行っていないような新制度まで導入したのでした。
NUMMIでトヨタブランドの「カローラFX」も生産
最近の経済メディアは、ドル高が続く状況の中で、生産を海外移転することの必要性を唱えています。しかし、海外移転した工場が日本と同じ品質レベルを維持することがいかに難しいかについての論議が少ない気がします。