10月28日、「信州たかもり熱中小学校」のオープンスクールが開かれた。写真は左から熱中小学校発起人の堀田一芙さん、信州たかもり熱中小学校の用務員・元八十二銀行、前八十二リース取締役の新井正彦さん、教頭の林靖人・信州大学准教授、校長の塚越寛伊那食品工業会長、高森町の熊谷元尋町長

 隣の家との境界は1センチでも自分の土地が増えるようにしたい。道路にもぎりぎりに塀を立てて少しでも自分の面積を増やしたい――。

 「しかし、住民がみなこうした考えをしている限り地域は良くならない」

 今、何回かに分けて「トヨタが師と仰ぐ企業」としてご紹介している長野県伊那市に本社がある伊那食品工業の塚越寛会長はこう話す。

逆転の発想で地域を良くする

 もし逆の発想をしたらどうなるだろうか。10センチでも20センチでも自分の土地を下げて道路を広くする。背の高い石垣は作らずに道を通る人の見通しを良くする。

 間違いなく人も自動車も自転車も通行しやすくなり歩行者が事故に巻き込まれるケースは少なくなるはずだ。しかし、土地に対する執着心の強い日本人にとってこれを実践するのは非常に難しい。

長野県高森町

 もちろん法律でセットバックを強制して道を広げることはできる。

 しかし、すべて行政に任せていては一部の住民から間違いなく文句が出てせっかくの施策も遅々として進まない。

 「その地域に住む人の発想を変えることがまず大事なんです」と塚越会長は話す。

 実は塚越会長は会社でも自宅でもこれを実践しているのだ。「新しい工場や事業所を立ち上げたときには必ずそうするようにしています」と言う。

 そして社員にもことあるごとに「自分の利益より地域の利益を優先する」考えを伝えている。何よりも会社が実践しているので、社員はその効用を身をもって体験しいつの間にか自分の血と肉になっている。

 地方創生は簡単には進まない。住民一人ひとりが他人や行政に頼る考え方を改める必要がある。迂遠な方法のようで最も近道だと塚越会長はみる。