あなたに、どうしても捨てられないTシャツはありますか?(写真はイメージ)

 先日、知人にすすめられて『インターステラー』という映画を観た。難解ではあるが、個人的には人生の十指に入るぐらいの素晴らしいSF映画だった。観たことがある方なら同意していただけるのではないかと思う。

 この物語中の「過去」に世界では食糧危機があり、砂嵐に脅かされている人類の「現在」が描かれ、「未来」を切り開くために登場人物たちは立ち上がる。時間と次元が、この素晴らしい映画を読み解くための鍵となるのだが、いま地球で流れる「現在の時間」がとても愛おしくなった。

 そこで今回は「過去」「現在」「未来」をキーワードとして3冊の本を選んでみることにする。

「買わなかったTシャツ」ならある・・・

捨てられないTシャツ』(都築響一著、筑摩書房)

捨てられないTシャツ』(都築響一著、筑摩書房)

 そういえば捨てられないTシャツという存在が僕にはないなと、本書を読み終えて思った。捨てられないTシャツは、まず例外なく思い出とリンクしている。この本のなかには「お気に入りだから」の一言では片づけられない、数々のドラマがある。そして、そのエピソードを欲している自分がいる。

 ある人は友だち以上恋人未満の彼と、人生で初めてお揃いのTシャツを買ったからと捨てることをためらっている。また、ある人は親にも見放された自分を唯一見捨てなかった祖母に対する想いから、自作のTシャツを手元に置いている。ページをめくりながら頭の隅のほうで必死に、Tシャツにまつわるエピソードを思い出そうとしている自分がいる。雑誌の付録についていた綾波レイのイラストが描かれたTシャツは、着衣後の風貌を世間様にさらせるような代物ではなく、開封後すみやかに寝巻となったし、渋谷の古着屋で20年ほど前に購入したお気に入りだった赤いTシャツはいつの間にか見かけなくなった。中、高の卒業アルバムさえ手元にない自分は、過去を切り捨てながら生きてきたのかもしれないと、ふと思う。Tシャツ=過去の思い出に重きを置かない人生を歩んできてしまった。それゆえに、本書の一話一話が胸に訴えかけてくる。