私は、民間企業も、そして博士号を取得済み、あるいはこれから取得しようという人たちにも、マインドセット(思考の枠組み)を一度リセットしていただきたいと思う。というのも、博士というのは、科学研究ばかりではなく非常に幅広い分野にまで応用可能な能力を身に着けた人だからだ。

ビジネスにも通じる“科学の方法”

 科学は「観察・推論・仮説・検証・考察」という5段階で進める方法を採っている。この方法は科学だけでなく、ビジネスにも大いに通じる方法だ。

 たとえば「千客万来の喫茶店を立ち上げたい」と考えたとする。そうすると、まずはよく流行っている喫茶店を訪問しまくって「観察」する。そしてお客さんの心をどうやってつかんでいるのかを「推測」する。そして「こういう条件を備えた喫茶店なら、確実に流行るのではないか」という「仮説」を立てる。そして実際に企画し、喫茶店を始めてみる(検証)。そして、実践の中で気づいたことから仮説が正しかったかどうかを「考察」する。

 仮説がどこか間違っていたと気が付いたら、再度、他の喫茶店と自分の喫茶店にどんな違いがあるのかを「観察」し・・・と、5段階法を繰り返し、仮説の精度を上げていきながら、喫茶店の業績を向上させていく。

 博士号まで取得した人というのは、この「観察・推論・仮説・検証・考察」という、ガリレオが実践の中で示した科学の方法をマスターしている。修士号だと、その入口のところで卒業してしまっているので、企業内で鍛え直さないとなかなか自発的には実践できない。しかし博士号を取得した人なら、自ら企画し、自ら実証するという黄金のパターンをマスターしている。即戦力なのだ。

 幸か不幸か、ポスドクとしてさまざまな研究機関を転々とするうちに、どんな研究テーマが与えられても柔軟に対応する博士だけが生き残っている。「自分の専門しかやりたがらない」という昔の博士のイメージとは、ずいぶん違っている。かなりの柔軟性と即戦力としての実力を備えたポスドクが多い。

 その点で、民間企業の採用担当者はマインドセットを一度リセットし、人物を虚心坦懐に見つめ直して頂き、ぜひ即戦力としての採用を考えて頂きたい。