タコで“多幸”に! 進む完全養殖プロジェクト

切っても切れない日本人とタコの仲(後篇)

2017.01.27(Fri) 漆原 次郎
筆者プロフィール&コラム概要
マダコの幼生。基本的な体形は成ダコと同様。(写真提供:西川正純氏)

 日本人にとってのタコを主題に、前後篇で歴史と現状を見ている。

前篇では、私たちがタコを好んで食べるようになった理由を探った。禁忌はないし、乾燥させたり発酵させたり保存食としても重宝。海の幸の1つとして、ためらうことなく日本人はタコに近づいていったのだろう。日本人はタコと良好な関係を築いてきたのだ。

 では、その良好関係はこれからも続くのだろうか。じつは近年、雲行きが怪しくなっている。供給不足が生じ、タコ焼きなどで原料不足が深刻化しているのだ。「高くて買えない」などという状況になれば、タコが疎遠な存在になってしまいかねない。

 国内でタコがたくさん獲れれば、供給は安定するし、水産業も活性化する。タコ好きな日本人にとっての“多幸”につながる。そんな理想状況を実現しようと、「タコの完全養殖」プロジェクトが進行中なのをご存知だろうか。後篇では、プロジェクトの研究リーダーに現状や課題を聞くことにしたい。

完全養殖に残された課題は「着底」

 完全養殖とは、成ダコ(成魚)から卵を採り孵化させ、それを育てた成ダコ(成魚)から再び卵を採るサイクルを確立すること。近年ではクロマグロの完全養殖実現が話題になった。「近大マグロ」はブランドとなり、現在は豊田通商がビジネス展開している。ウナギも水産総合研究センターが完全養殖に成功したと発表したが、数年経った今も量産化には至っていない。

 タコについては、成ダコを人工的に孵化させたり、天然ものの幼生を生簀で蓄養させるなど、“完全でない”養殖は大正時代から行われてきた。だが、完全養殖は未達成とされる。「産卵、孵化、幼生」まで、それに「稚ダコ、成ダコ、出荷」までの養殖技術は完成しているが、その間にある「着底」、つまり海中に浮遊している生後3〜4週間のタコが海底に落ち着く段階が、完全養殖の課題になっているのだ。

 国内のタコ漁獲量は年々減っている。2007年には年間5万トンを超えていたが、2015年は3万トンをわずかに超える程度。2011年には、タコの主要産地だった福島県など東北各県が軒並み震災の打撃を受けた。モロッコやモーリタニアなど海外から輸入もされているが、その一方、タコ食の習慣がなかった中国内陸部などで需要が増えている。日本にとって、タコの安定供給はかなり切迫した課題になってきているのだ。

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1975年生まれ。神奈川県出身。出版社で8年にわたり理工書の編集をしたあと、フリーランス記者に。科学誌や経済誌などに、医学・医療分野を含む科学技術関連の記事を寄稿。日本科学技術ジャーナリスト会議理事。著書に『日産 驚異の会議』(東洋経済新報社)、『原発と次世代エネルギーの未来がわかる本』(洋泉社)、『模倣品対策の新時代』(発明協会)など。


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