「まさか、ということはあり得る。頭痛の種だ・・・」
そう言って、サー・ジョン・ボイドは頭を掻きました。このところロンドン滞在の折は、必ずサー・ジョン邸をお訪ねします。ケンブリッジ大学チャーチル校前学長として大学間協力のサポートをいただく、あるいは前大英博物館長として研究プロジェクトでお世話になる・・・。
様々な話題がありますが、彼と食卓を囲むと、話題の中心はどうしても外交になります。
現在もアジアハウス理事長の職位にある英国の老練な外交官であるサー・ジョン・ボイドは1990年代前半には駐日大使として東京で様々な音楽イベントも主催しておられました。
自身も長年にわたってヴィオラ奏者として室内楽で活躍してこられたサー・ジョンが、このところ一番恐れていたのが英国のEU離脱でした。そしてそれが現実のものになりつつある。
「グレグジット(Grexit)よりブレグジット(Brexit)が先に来る、などということは、あってはならないことだけれど・・・」
そのあってはならないこと、「まさか」が「まさか」でなくなってしまったのが2016年6月23日でした。ことによるとこれは大英帝国800年落日の始まりになっているかもしれません。
ちなみにグレグジットとはギリシャのEU脱落、ブレグジットはブリテンつまり英国のEU離脱を意味します。拙劣な経済より先に、拙劣な行政判断で、こともあろうに英国が「欧州」という枠組みを壊していく端緒を切ることになってしまうとは・・・。
なぜこんなことになってしまったのか。
「守り」に回って国を失う衆愚の妄動というのが、報道に接して最初に個人的に感じた事ではありますが、まずは順をおって考えていきましょう。