生肉を食べるのはこんなに危険

リスクが高いのはレバ刺しだけではない

2014.08.08(Fri) 佐藤 成美
筆者プロフィール&コラム概要

 国内での感染例はほぼないものの、豚やイノシシに寄生する有鉤条虫(ゆうこうじょうちゅう)などの寄生虫は、死に至るほどの重篤な感染症を引き起こす。
に。豚肉の取り扱いには注意が必要とされてきた。

 一方、牛や馬は、このような寄生虫感染のおそれが少ないので、生で食べられる場合がある。しかし、食中毒事件で死者を出した腸管出血性大腸菌は、特に牛の腸管に多く生息し、糞尿などを介して牛肉やほかの食品を汚染する。

 鶏肉も刺身などで食べる場合があるが、鶏肉にも寄生虫や細菌がいる。食品安全委員会の調査によれば、小売店で販売されている肉の半分以上がカンピロバクターに汚染されていた。

 カンピロバクター属の細菌は、家畜やペットの腸管に存在する細菌で、特に鶏の保菌率が高いと言われる。汚染された鶏肉を生のまま食べれば、下痢や嘔吐、発熱などの症状だけでなく、神経まひや呼吸困難などを引き起こすギランバレー症候群を発症する可能性もある。

 魚についても、すべての種類を生で食べられるわけではない。刺身は四方を海に囲まれ新鮮な魚がすぐに手に入る日本だからこそ味わえるものなのだ。

 生食するのは主に海水魚だが、腸炎ビブリオという細菌による食中毒のリスクがあるので新鮮なものに限る。腸炎ビブリオによる食中毒は夏場に多く発生し、激しい腹痛と下痢を引き起こす。また、サケにはアニサキスなどの寄生虫がいるが、冷凍すると死ぬので、冷凍処理したものが刺身などで食べられている。

 一方、淡水魚には肝ジストマや横川吸虫といった寄生虫が多いため、生食は向かない。肉や魚の細菌や寄生虫は十分に加熱すれば死滅する。

肉の生食経験者は6割

 生肉は食中毒のリスクが高いので、十分に加熱して食べるのが当然だと考えられてきた。ましてや豚肉を生で食べるなどという発想はあまりなかった。

 ところが、最近の消費者は、肉の生食への警戒の意識が薄れているようで、抵抗感もなく豚の刺身を食べている。外食ばかりでない。新鮮なら大丈夫と野生の鹿や猪を刺身で食べたり、スーパーで買ってきた生肉をそのまま食べたりする人までいる。「若い知人が調理中に生肉を味見している姿を見て、唖然とした」(40代女性)という声も聞いた。

この連載記事のバックナンバー
トップページへ戻る

サイエンスライター、明治学院大学非常勤講師(生物学)、農学博士。食品会社の研究員、大学の研究員、教員などを経て現在に至る。研究所の広報誌やサイトなどにも原稿を執筆している。著書に『「おいしさ」の科学』(講談社ブルーバックス)『お酒の科学』(日刊工業新聞社)など多数。


食の万華鏡

食の安全に対して国民の関心が高まっている。今後、安全で美味しい食の供給国としての日本を考えた時にもこの問題は重要になる。食の安全の話題を中心に、食トレンド、食品マーケットなど、食にまつわる様々なテーマを取り上げる。